03


「わあ…!見て見て遊作くん、大きいトラがいるよ。」

「なまえ、そんなに走らなくてもトラは逃げない。」

「あっ、ごめんね。動物園って初めてだからつい嬉しくて。」



そう言って嬉しそうな笑顔を浮かべるなまえを見ていると、此方も自然と表情が和らぐ


数十分前、自宅を訪れたなまえに草薙さんから貰った移動動物園のチケットを差し出した所、彼女は嬉しそうに喜んだ

そのなまえと共に件の移動動物園へと遊びに来たのだが、彼女と手を繋ぐという目的はやはり気恥ずかしさから達せられずにいた


しかし内心悶々としている俺には気付かず、なまえは至極楽しそうに様々な動物に話し掛けながら手を振っている


そして多くの大型動物や小動物を見て回った最後、俺達はうさぎやモルモットに触れる事が出来る広場へとやってきた



「あっ、うさぎ!ほら遊作くん、可愛いうさぎちゃん!」



なまえはうさぎを見るや否や真っ先に柵で囲まれた広場へと入り、目を輝かせながら小さなうさぎを抱き上げる


その様子を可愛らしく思いながら広場に足を踏み入れた所、俺の足元にもうさぎやモルモット達が寄ってきた

そっとその中の一匹に手を伸ばしてみたがうさぎは臆病な生き物とはよく言ったもので、怯えたうさぎが逃げ出してしまう


「…ふふっ。あのね遊作くん、うさぎは怖がりの子が多いの。」


一連の所作を見ていたのだろう

なまえが小さく笑いながら俺の所へとやって来る


「やはりそうか。」

「まずは後ろから優しく撫でてあげて…落ち着いたらこうやって、お腹から抱き上げてあげるといいよ。」


ほらね、と言いながらなまえはいとも簡単に近くにいたうさぎを抱き上げてみせる

そうは言ってくれたものの、なまえのように上手く抱き上げる自信があるかと言えば微妙な所だ


「…あっ。じゃあ私が抱っこしてるうさぎちゃん、抱っこしてみる?この子、とっても人懐っこいみたいだし。」


そんな俺の心中を察したのか、なまえは自分が抱き上げていたうさぎを此方へと渡してくる

見よう見まねで彼女のように抱き抱えてみると、うさぎは鼻をひくつかせながら俺の腕の中で大人しくしていた


「ほら。このうさぎちゃん、人懐っこくて可愛いでしょ?」

「…そうだな。」


きっとなまえと一緒でなければ此処へ来る事も、小動物に触れる事すらなかっただろう

口には出さないながら、俺は心の中でなまえに感謝した



「今日はありがとう、遊作くん。」


そして移動動物園を出た帰り道、隣を歩いていたなまえがふと感謝の言葉を口にした

感謝するのは此方の方だと告げたのだが、彼女は緩く左右に首を振る


「私一人じゃきっと移動動物園へ来られなかったと思うから、そのお礼。また一緒にお出掛け、しようね。」

「ああ。…また、一緒に。」



…そうだ、なまえと出掛けるのはこれが最後じゃない

次も、この次も、なまえと共に出掛けよう


今日は繋ぐ事の出来なかった片手を見つめながら俺は一人、小さく心に誓った


次も、この次も彼女と共に

―――――
やっぱりうさぎが好きなので。


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