02
翌日、半ば強引…というか無理矢理店を休みにした草薙さんに促され、俺となまえは二人で出掛ける事になった
しかし普段から自宅と学校、そして草薙さんの店以外の場所にほとんど立ち寄る事のない俺にはなまえが喜びそうな場所等思い付く筈もない
そんな俺を見かねてか当日の早朝、自宅を訪ねてきた草薙さんが移動動物園のチケットを渡してくる
「これは?」
「見ての通り、移動動物園のチケットだ。遊作にやる。」
「どうして俺に?」
「お前、今日なまえと出掛ける予定なのに何処へ連れて行こうかとか考えてないだろ。」
「…まあ、否定は出来ない。」
俺がそう告げれば草薙さんは大きく、そして深い溜め息を吐く
「いいか遊作、なまえの事をちゃんと見てるんだぞ。」
「普段から見ているつもりだが。」
「いつも以上に、だ。はぐれないように手を繋いだり、他の男から守ってやったり…とにかく、目を離すなよ。」
そう念を押すと草薙さんはチケットを俺の手に握らせ、そのまま直ぐに帰ってしまう
「…目を離すな、か。」
確かになまえの周囲には常に多くの友人や級友がいて、気恥ずかしさも相まって手を繋いだ事は今までなかった
おそらく草薙さんはそれも見越していたんだろう
「…誰かと手を繋ぐなんて、いつぶりだろうか。」
最早記憶にすら残っていないのか、はたまた手を繋いだ事すらなかったのか
自分の片手を見つめながらふと思いにふけっていた所チャイム音が室内に鳴り響き、なまえが来たのだと理解する
「遊作くん、こんにちはっ。」
「ああ、今開ける。」
今まで手を繋いだ事のなかった俺が手を差し出したら、彼女は一体どんな反応をするのだろう
そんな事を考えながら、俺は玄関の扉をゆっくり開いたのだった
誰かと手を繋ぐということ
―――――
移動動物園、行ってみたいです。