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「おはよう、遊作くんっ。」
「…なまえ?」
前日草薙さんに店へ来るよう頼まれた俺だったがそこに草薙さんは居らず、代わりになまえが笑顔で店の前で待っている
その状況に少々困惑しているとなまえが此方に近付いてきて、小さく眉を下げながら言葉を紡ぎ出す
「ごめんね、遊作くん。今日遊作くんを呼んだのは草薙さんじゃなくて、私なの。」
「何故、なまえが。」
「昨日の遊作くんがちょっと落ち込んでたみたいに見えてね。心配になって草薙さんに相談したら、『遊作を気晴らしに連れて行ってやってくれ。連絡は俺がしておくから。』…って言われたの。」
「…そういう事か。」
あの時、直ぐに向かおうとした俺を引き留めた草薙さんの声が慌てていた理由がよくわかった
「遊作くんが私といて気晴らしになるかはわからないけど、今日は一緒に色々な所へ行ってくれたら嬉しいなあ。…なんて。」
そう言ってはにかむ様子を見せるなまえ
確かにここ最近は草薙さんの弟の意識が奪われた事に始まりサイバース世界の崩壊、ボーマンとの連戦、情報を求めて訪れた風のワールドの消滅と、様々な要因が重なり心に余裕がなかったかもしれない
それが原因で草薙さんは勿論、なまえにも心配を掛けていた事に気付かされた
その事を申し訳なく思う反面、なまえの人を想う優しさが心に沁みていくような感覚を覚える
「心配を掛けてすまない。それと…ありがとう、なまえ。今日は一日、宜しく頼む。」
「えへへ、どういたしまして。今日は遊作くんを色々な所に連れて行っちゃうからねっ。」
明るく無邪気な笑顔を浮かべたままなまえは俺の手を取り、街の中心部へと歩いて行く
繋がった彼女の手はとても温かく、それだけで曇っていた心が晴れていくようだった
繋がった手から伝わる温もり
―――――
気晴らしは大切ですね。