05
なまえが此処に来てからもう1ヶ月が経過し、大分警戒心も解けてきたのか離れる距離も1メートルから半分程に縮まっていた
これならきっと大丈夫だろう
そう考えて私は部屋にこもっているなまえの元へと足を進め、部屋の扉を開く
「なまえ、出掛ける準備をしろ。」
「え……」
「外に出る。」
私がそう告げると脱兎の如く逃げ出し、ベッドの下に隠れるなまえ
もしかしなくても、それは隠れてるつもりなのか
「別になまえ、お前を追い出そうと思ってる訳じゃない。お前の服を買いに出るだけだ。」
「…私の、服?」
「そうだ。いつまでも私の服を着ている訳にもいかないだろう。」
そう、なまえには自らが着用していた服しかなく私の服を貸していたのだが
私の服がなまえの身体に合う筈もなく、早くきちんとした服を与えたいと思っていたのだ
最初は外に出る事を渋っていたなまえだったが何とか納得させて外に連れ出し、多くの店が立ち並ぶ街の中心部へと足を運ぶ
此処ならばなまえに合う服は十分見つけられるだろう
だがなまえは私の背後に隠れたまま辺りをしきりに見渡しているだけで、店内に入ろうとはしない
好みのものがないのだろうか
「どうしたなまえ、好きな店で服を選べ。」
「……わからない。」
「何?」
「服…買った事がないから、わからない。」
…ほとんど外に出た事がないと言っていたが、まさかここまでとは
取り敢えず手近にあった店へと入り、店員に手短な説明をして何着か服を買いたい旨を伝える
「ではお客様、此方へどうぞ。」
「え……あ、う…」
笑顔で接する店員相手にも恐怖心が勝るのか私の背後に隠れたまま、言葉を詰まらせるなまえ
「心配するな。此処にはお前を傷付けよう等と考えている人間はいない。」
そう宥めればなまえは多少怯えつつも店員に促され、幾つかの服と共に試着室へと入っていく
なまえの世間に対してあまりに無知である事、それに付け加えて誰に対しても怯えたような表情を見せる行動
やはり今まで置かれていた環境が起因となっているのかもしれない
なまえが入った試着室へ視線を向けながら私は一人、彼女が出てくるまで脳内で推察を続けるのだった
警戒心と恐怖心
―――――
少しずつ過去話を混ぜていけたらと思ってます。