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「なまえ、その荷物は私が持とう。」
「…ううん。大丈夫、持てるよ。」
「重さでふらついている状態でその言葉は説得力がないな。」
そう言ってなまえの手から荷物を受け取ればなまえは一瞬不服そうな表情を浮かべたものの、直ぐに払拭させて私に感謝の言葉を告げる
そのまま空いた手で頭を撫でてやれば嬉しそうに微笑むなまえの姿に、自らも表情が和らいでいるのを感じた
あのリンクヴレインズ内でのデュエル以降、少しずつなまえはデュエルを前向きに捉えていけるようになっているようで、それに付随し表情も明るくなっているようにも見える
そうなっていけばきっとなまえの未来も明るいものが待っているだろう
隣を歩く小さな少女の未来に想いを馳せて帰路に就いていた中、見慣れたホットドッグ店の見慣れた人物達…草薙翔一と藤木遊作、両者と視線が交わる
しかしそこには珍しくもう一人穂村尊がいて、彼は私を見るなり露骨に嫌がる表情を浮かべた
「…げ、鴻上かよ。」
「安心しろ、貴様に用はない。」
ロスト事件の被害者である彼は私を許してはいないし、許されることではない事も理解している
ただ、私へ向けられる敵意でなまえに影響が出てしまう可能性があるなら、此処に長居するのは得策でないだろう
それ故に早々に立ち去ろうとしたものの私のその態度が気に障ったのか彼は腰掛けていた椅子から立ち上がり、此方へ向けて大きな声を上げる
「ああそうかよ!流石、ハノイの騎士のリーダーは傲慢だな!」
「ハノイの…騎士?」
「…っ!」
騙していた訳じゃない
隠している訳でもなかった
だが、まだなまえに知られたくなかったというのは事実で
背後に向けられる彼からの敵意、そしてなまえから向けられる疑問を含んだ視線
それらを一面に受け、いつの間にか私の肌には冷や汗が伝っていた
露見してしまった事実
―――――
予想もしていなかった所から晒されてしまった事実。