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「なまえ。買い出しに出掛けるが、今日は…」
「今日は…行かない。」
「そうか。ならば戸締まりをしっかりして、留守番をしていてくれ。」
大きな雨粒が降り注ぐ中、ふと自宅を見上げると心なしか沈んだ顔をしているなまえの姿が見えた
普段は買い出しとなると私の後を嬉しそうに付いてくるなまえだったが、雨の日になると極力外に出たがらない
本人に理由を尋ねてはいないがおそらく私と出会う前…なまえが逃げ出してきた時は悪天候の日が続いていた時季だった
その事から過去を思い出してしまい、外出するのを避けてしまっているのだろう
だが彼女はもう自由の身
過去を無かった事には出来ないがこれからのなまえには晴天、雨天に関わらずいつも笑顔でいてほしい
「…そうだ。」
ある一つの妙案を思い付いた私は買い出しを早々に終わらせ、自宅へと戻った
「了見、それは?」
「これはてるてる坊主だ。」
「てるてる…坊主?」
やはりてるてる坊主を知らなかったなまえは不思議そうに私が作ったてるてる坊主を見つめている
「これは雨がやむようにと願い、飾る物だ。一種の神頼みだな。」
「飾ったら雨、やむの?」
「それは何とも言えない。だが私も幼い頃降り続く雨がやめばと思い、父と幾つものてるてる坊主を飾ったものだ。」
父と過ごした幼い頃の記憶
懐かしいその記憶を思い出しながらてるてる坊主を作っていると、なまえも興味を持ったのか私の隣で作り始める
出来上がったてるてる坊主は少々不恰好だったが、それでもなまえは初めて作ったそれを満足気に眺めているようだ
「了見。」
「なんだ、なまえ。」
「雨の日も、楽しいね。」
「…そうだな。」
おそらく他者ではわからない程の表情の差
だがなまえは確かに今、笑ったのだ
そして、この日作ったてるてる坊主は後に彼女の大切な宝物になったのだった
てるてる坊主の奇跡
―――――
幼い頃にてるてる坊主って作りましたよね。