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「了見。太陽は…西から昇って、東に沈む?」
「逆だ。東から昇って西に沈む。」
この日なまえは時折私に答えを尋ねながら、三騎士達が作成した常識問題を黙々とこなしていた
なまえが再び私の元へ戻ってきてから彼女は様々な事を私に尋ねてくるようになった
冒頭のような一般常識は勿論、LINKVRAINSといった今まで忌避していたデュエルに関する事も尋ねてくるなまえ
どうやらなまえの中では自分の無知が原因で此処を離れなければならなくなったと解釈し、自らの足りない知識を補おうと様々な事を学ぼうとしているらしい
私は決してそんな事を考えてはいないのだが今まで学校等へ行った事がないであろうなまえが自発的に学びたいと思っている、それならばと私も出来る範囲でなまえが学ぼうとしている事をサポートする事に決めたのだ
だが…
「なまえ、LINKVRAINSは電脳空間でデュエルを行う場所だ。…デュエルの事は無理に知ろうとしなくてもいい。」
なまえの過去を鑑みれば、デュエルの事を知れば知る程傷付く可能性があるのはわかっている
しかしなまえは決して首を縦へ振ろうとはしなかった
「なまえ、どうしてそこまでする必要がある。」
「…ずっと。デュエルは苦しいものだって、思ってた。今でもそう、思ってる。」
「……。」
「でも…画面の中の人達や街の人はみんな、楽しそうな顔をしてた。…いつか私もあんな風になれたら、と思った。」
幾度となく連れ出した街中で行き交う人々やデュエルを行う人間達を見ていると思ってはいたが、まさかそんな事を考えていたとは
「今はまだ無理、だけど。」
「結果を急ぐ必要はない、なまえ。いつかきっと、デュエルが楽しいと思える日が来るだろう。」
「…うん。」
小さく頷きながらそう答えるなまえは再び問題に取り掛かり始める
今はまだなまえにとって恐怖の対象でしかないデュエルだが、そう遠くない未来に楽しめる日がきっと来るだろう
唯一所有していた私物ながら一度として手にした事がないなまえのデッキを見つつ、私は小さく表情を和らげたのだった
いつか、きっと
―――――
常識問題ってなんですかね。就職試験で出たあれですかね。