02
「…まだいるのか。」
翌日の早朝、窓から外を見やれば件の少女は依然として木陰に座り込んでいた
家出か何かは知る由もないが、夕方には雷を伴った強い雨が降るらしい
そうすれば否が応にもきっとあの場から去るだろう
自分でそう結論付け、私は窓辺から静かに離れた
そしてその日の夕方
予報通り薄暗い雨雲が空を覆い尽くし、叩きつけるような大粒の雨が降り始めた
流石にこの天気ではもういない筈
そう思って再度外へ視線を向けた所、あの木陰にぼんやりとした人影を見つける
「まさか…!」
この雨の中、まだあの場所にいるのか
急いで傘を差し、木陰へ向かうとやはりあの少女はそこにいた
雨粒で全身が濡れている事に加え強風が吹いていた所為だろう、寒さから身体を震わせていた
「此処に留まり続ける理由は何だ?」
何故この少女が頑なにこの場から動かぬ理由がわからなかった為尋ねてみたものの、答えは返ってこない
「…帰る場所がないのか?」
「……。」
やはり返答はない
だが、その少女が小さく頷いたのを私は見逃さなかった
私は決して善人ではない
しかし今この場で命の灯火が消えそうな人間を放っておく程、人の心がない訳ではない
「今、此処で死にたくなければ私と共に来い。」
そう言って手を差し出せば少女は一瞬驚いた表情を見せたものの、そっと私の手に自身の手を重ねる
そのまま私は少女の手を引き、自宅へ向かったのだった
ただ、人として最低限の事を
―――――
放っておけなかった了見。