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「なまえ、寒くないか?」

「……。」

「なまえ?」

「……寒い。」

「やはりな。」


自宅で部屋から持ってきた毛布を頭から被った状態でいるなまえに対し、私は眉を下げながら小さく溜め息を吐く



秋風が吹き始め気温も前日よりも下がったこの日、私となまえは数時間前に買い物へ出ていた


全ての買い物を終え帰路に就いていたその時、最早時季外れだと言わんばかりだがなまえが前方にソフトクリームの移動販売車を見つけてしまった

初めて食べた時からソフトクリームが気に入ってるなまえは当然食べたがったが、私は体が冷えるとなまえを窘め足を進めようとする


だがなまえはソフトクリームを買うまではこの場を動かないとでも言いたげに小さく頬を膨らませながら此方を見つめてきた

暫く私となまえの静かな攻防が続いていたのだが結局私の方が根負けしてしまい、なまえにソフトクリームを買い与えてしまったのだ


しかし、寒空の下でソフトクリームを食すという事は体を冷やすといった事と同意な訳で

予想通り体を冷やしてしまったらしいなまえは寒さに震えながら毛布を被って暖を取っていたのだ



「だから言っただろう、体が冷えると。…ほら、これを飲むといい。」

「…これは?」

「ホットミルクに蜂蜜を入れたものだ。体が温まる。」


そう言ってカップを差し出せば毛布の塊から手を伸ばし、ゆっくりとホットミルクを飲み始めるなまえ

未だ毛布を被った状態の為に表情を窺い知る事は難しかったが、安堵の息を漏らしている様子を見て嫌ではない事は簡単に推測する事が出来た



「了見。……好き。」

「…っ、なまえ?」


「これ。あったかくて、少し甘くて…おいしいから、好き。」

「…ああ、ホットミルクの事か。」



不意に聞こえた言葉に鼓動が速まったのも束の間、それは先程手渡したホットミルクの事だった

正直肩透かしを食らったような気分だったが、なまえはそんな私に気付かず安心したようにホットミルクを飲んでいる


そんな普通の幸せをようやくなまえにも与える事が出来たのならば、これほど嬉しい事はない

自身で淹れたコーヒーを飲みつつ、私は安堵した様子のなまえをそっと眺めていたのだった


幸福な時間

―――――
夏に買ったアイスを食べ損ねたまま秋を迎えた事を思い出したので。


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