18
「そっかー、なまえはこの人に助けてもらったんだ。」
「…うん。」
水族館で出会ったその青年となまえ、私は近くのカフェへと移動する
なまえのかつての仲間、ヒカルと名乗ったその青年はなまえにこれまでの軌跡を少しずつ語り出す
賭けデュエルを強制されていた施設が火事に見舞われ、その時に死を覚悟した事
その後助け出され晴れて自由の身となったものの、唯一行方不明となっていたなまえの身を仲間の皆が案じていた事
そして今の自分に初めて家族というものが出来て幸せを感じている事等を話していた
だが嬉しそうに話す青年と違い、なまえは未だ暗い表情で顔を俯かせている
それに気付いた彼が不思議そうに首を傾げていた最中、意を決したようになまえが顔を上げた
「なまえ?」
「……、ん。」
「え?」
「…一人だけ逃げて、ごめん。」
きっとなまえはこの事を負い目に感じていたから、彼との再会も素直に喜ぶ事が出来なかったのだろう
だが青年は首を振って否を表す
「逃げられる時は一人でも逃げる。みんなで決めた事だろー?それに、なまえが火事を通報してくれたからこうして生きてる。感謝こそするけど、なまえを恨むヤツなんかいないって!」
私は一切口を挟む事はなかったが、当事者同士の話を聞いて改めて思う
彼等は長い間、想像を絶するような環境下に置かれていたのだと
その言葉を聞いたなまえは一瞬驚いた顔をしたものの直ぐに安堵した表情になり、ありがとうと呟く
なまえの表情が変化した事に気付いた私は勿論、彼も嬉しかったのだろう
満面の笑みを浮かべながら頷いていた
「そうだ!なまえも俺と一緒に来なよ!」
「…え?」
「俺を迎え入れてくれた家族の人達、凄くいい人達でさ。きっとなまえの事も迎え入れてくれると思うんだ。」
困惑した表情のままでいるなまえの前へ手を差し出す青年、ヒカル
なまえの事を考えた場合、かつての仲間と共にきちんとした家族の元で暮らす方が幸せかもしれない
だが、彼女の幸福を一番に考えなければいけない私自身がそれを望んでいないと言える筈もなく
そんな葛藤を抱えながら両者を見据えていた所、なまえは小さく横へ首を振った
「…ありがと。でも……もう、私にも居場所が出来たから。だから、遠慮する。」
「んー、そっか。ちょっと残念だけど、なまえに居場所があるならそれでいいや。」
残念そうに眉を下げながらも何処か嬉しそうな彼はおもむろに席から立ち上がると私の方へと向き直り
「なまえの事、宜しくお願いします!」
ただ一言、それだけを告げて走り去ってしまった
「…帰ろう、なまえ。」
「うん。」
そう言ってなまえは私が差し出した手を握る
かつての仲間の傍ではなく、もう自分には居場所があると
彼が差し出した手ではない、私の手を取ってくれたなまえ
そんな何でもない事が今はただ、無性に嬉しかった
選んだ居場所
―――――
ヒカルは昔飼ってたリスから拝借しました。