14.5
「あの…あ、ありがとう。」
「気にすんなって。財布、見つかって良かったな。」
件の人物…なまえと名乗る少女が落とした財布を俺達が探し始めてからおよそ30分後、その財布は無事に広場の茂みで見つける事が出来た
「だが、何故こんな所に財布が落ちているんだ。」
「多分…耳が尖ってて、長い尻尾の子を追いかけた時に落ちたんだと思う。」
「…耳?」
この少女はこんな街中でキツネか何かでも追いかけていたとでも言うのか
「あ…あの子。」
そう言って指差す先に現れたのは小さな黒猫で、此方を一瞥した後直ぐに何処かへ行ってしまった
「なんだ、猫を追いかけてる拍子に落としちまったのか。」
「猫…?」
「知らないのか?」
その言葉へ頷く少女の様子に対し、俺は一抹の違和感を覚える
もしかすると少女は箱入りに育てられたのではなく何か特殊な環境下に置かれ、一般的な知識がないまま育てられていたのではないだろうか
…だが、そんな突拍子もない空想事を確かめる術がある筈もなく
そのうちに草薙さんが少女を自宅まで送ると言った為、俺とその少女は草薙さんの車に乗り込んだ
「悪いな遊作、なまえ。ちょっとばかり狭いが我慢してくれよ。」
「別に構わない。」
「……。」
構わないとは言いつつ、助手席に二人の人間が座るというのは如何なものかと思ったが
車に乗る事すら初めてらしい少女が不安気な顔をした為草薙さんに頼まれ仕方なく同乗したものの、未だに少女は不安そうに辺りを見渡している
「心配するな。」
「…え……」
「草薙さんはちゃんとアンタを家まで送り届けてくれる。」
そう告げれば少しだけ安心したように表情を緩ませる少女
そして、何故か少女は俺の顔を真っ直ぐに見つめ始める
「…似てる。」
似てる?
一体誰に?
「…今、一緒にいる人に少しだけ、似てる気がする。」
それは誰の事だと尋ねようとした瞬間車が止まり、少女の自宅近くに着いたのだと認識する
「…送ってくれて、ありがとう。」
「いいって事さ。…っていうか、なまえの家は此処だったのか。」
そこはスターダスト・ロードが見られる事で知られた公園で
草薙さん曰く、お得意さんが住んでいると言っていた住居がある場所だった
「なまえ、お兄さんに宜しくな。」
「…お兄さん?」
何故かその言葉に対し不思議そうに首を傾げながら、少女は住居へと入って行く
「あれ、兄妹じゃなかったのか?」
「さあな。ただ…普通の少女ではないと思う。」
「どういう事だ?」
俺にも理由はわからない
ただ、あのなまえという少女が普通の少女でない事だけは確信を持って言える
「…もしかしたら、俺達のような被害者なのかもしれない。」
人知れず呟いた言葉は車のエンジン音に掻き消され
誰にも知られず空中に消え去ったのだった
少女に抱いた違和感
―――――
番外編、遊作視点です。