13
「えっと…い、いってきます。」
「ああ。」
「心配しないで。なまえは私が責任を持って見ているから。」
「お願いします。」
なまえが少しずつではあるが心身共に安定してきたこの頃、なまえは三騎士の一人であるバイラと共に出掛けるようになった
…とは言え出掛けるとは言ったものの、彼女の住むマンションへ向かい資料の整理等を手伝っている位なのだが
それでも、初めて会った時の怯えた表情ばかりだった頃に比べたら大きな一歩だろう
このまま少しずつでも人や世間に慣れていってくれるといいのだが
そんな事を考えながら私は彼女を送り出していた
それから数日後の夕方
帰ってきたなまえがいつもと違い、何やら大きな袋を持っている事に気付く
「なまえ、どうしたその袋は。」
「あ……り、了見。」
…驚いた
これまでなまえが私の名を呼んだ事等、一度もなかったというのに
「…これ、あげる。」
そう言ってなまえは私にその袋を差し出せばそのまま部屋へと駆けて行ってしまった
矢継ぎ早に様々な事が起こり困惑していた私を見て、なまえを送ってきたバイラが一つずつ説明を始める
まず事の始まりはいつも自分の面倒を見てくれている私に対し、なまえが何かお礼をしたいと彼女…バイラに話したのが切っ掛けで
アルバイトといった大層なものではないものの彼女の手伝いをする事で少額の代金を貰い、その金を私の為にずっと貯めていたらしい
そして目標の金額まで貯まった今日、初めて一人で街中へと向かい、一人で買い物をしてきたというのだ
「…なまえを一人で買い物に向かわせるのは些か性急だったと思うのですが。」
「心配させてごめんなさいね。でもあの子…なまえが一人で行くって言ったのよ。いつも守ってくれる貴方に渡す物は自分で選びたいって。」
「自分で…」
開けてみたら、とバイラに促され袋を開けてみた所、中に入っていたのは真っ白な花が咲き誇っている小さな鉢植えが入っていた
「これは…」
「カンパニュラって名の花よ。花言葉は感謝。……とは言ってもあの子は花言葉を知らないだろうから偶然だろうけど、お礼を伝えるにはぴったりの贈り物ね。」
その後バイラを見送った私は自室に鉢植えを運び、窓際へ飾ってみた
その花を良く見ると花弁の一部に薄く青みが掛かっていて、何処となく私の髪に似ている気がする
なまえからの贈り物について驚きは隠せないものの、素直に嬉しい
だがそれ以上になまえが初めて私の名を呼んだ事、そんな些細な事が嬉しくて
自分でも気付いてはいなかったが、私は無意識に口元を緩ませていたのだった
些細な切っ掛けと贈り物
―――――
結構花が好きなので。