もう一つの、私の居場所
「…相も変わらず仮初めの平和を繕った空間ですね、此処は。」
LINKVRAINS内が一望出来る高さから見下ろしながら、私は小さく呟く
これからリボルバー様…ひいてはハノイの騎士が何を起こすのかも知らず、いい気なものだ
「スペクターさーん。」
そんな事を考えていた中、何処からか私を呼ぶ呑気な声が聞こえてくる
「あっ、いたいた。スペクターさん、見っけ。」
「また貴女ですか、なまえ。私には関わるなと何度も忠告したでしょう。」
「そうでしたっけ?」
「…全く。」
そう言ってその少女はちょこんと私の隣へと腰掛ける
馴れ馴れしく私に話し掛けてくるこの少女の名はなまえといい
以前悪質なプレイヤーに絡まれていた所を気まぐれで助けた際にすっかり懐かれてしまい、LINKVRAINS内で私を見つけると寄ってくるようになってしまったのだ
「ほら見てスペクターさん。私、植物族のデッキを作ってみたんですよ。」
そう言って私にデッキの内容を見せてくるなまえ
彼女は警戒心というものを持ち合わせてはいないのだろうか
「なまえ、貴女は何故私に付きまとうのですか?」
「え?うーんと…スペクターさん、だから?」
「答えになっていませんよ。」
私はハノイの騎士で、貴女はただの一般プレイヤー
本来出逢う事等有り得なかった筈なのに、たった一つの気まぐれが奇妙な縁を紡いでしまった
「なまえ、植物族にこの罠カードは相性が悪いのをわかってますか?」
「えっ!?」
私がそう指摘すれば驚きの声を上げながら慌ててデータ上のデッキを確認し始めるなまえ
「それでよくデッキを作ったなんて言えましたね。」
「うう…ごもっともです。」
「貴女一人ではきっと、まともにデッキを作れないでしょう。…仕方ないので私が指南してあげますよ。」
その言葉を聞いた彼女は一瞬目を丸くしたものの、ようやく意味を理解したのか満面の笑みを浮かべて私の背に抱き付く
「ありがとうございますっ!やっぱりスペクターさんは優しいなあ。」
「なまえ、話を聞いてましたか?仕方なくと言ったでしょう。」
偶然と気まぐれ、そんな奇妙な縁から始まった彼女との関係
だが、ただひたすら輝くような瞳で私を慕い見つめてくるなまえとの居心地は別段悪くないように思える
「…こんな気持ちは初めてですよ。」
「ん?スペクターさん、今なにか言いました?」
「いいえ、何でもありません。」
まさかリボルバー様以外の所にも自分の居場所が出来るとは思っていませんでしたよ
真剣にデッキとにらめっこを繰り返すなまえを眺めながら、私は人知れず口元を緩ませたのだった
もう一つの、私の居場所
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永久瀬様リクエストのスペクター夢、内容はハノイのことを知らない女の子とスペクターの甘い話でした。 気に入って頂けたら嬉しいです。