彼が抱いた羨望の理由


「えっと、待ち合わせ場所は此処でいいんだよね。」


街中の緑も色濃くなってきた初夏の休日
私は尊からなまえに会いたいと言っている人がいるから一目だけでも会ってやってくれと頼まれ、待ち合わせ場所に指定されたデンシティ内の噴水前で待ち人を待っていた

しかし私に会いたいと言っている人がどういう人物なのかと尊に尋ねても彼は曖昧な言葉と表情で詳細を語ろうとしなかった為、姿形はおろかどんな性格なのかもさっぱりわからない

せめて名前くらいは教えてくれても良いだろうにと小さく溜め息を吐いた瞬間、聞こえてきたのは聞き慣れた私の名を呼ぶ尊の声
名を呼ばれた方へ振り返ればそこには私服姿の尊と初めて見る人物が並んで歩いているのが見えた

「ごめんねなまえ、待たせた?」

「ううん、大丈夫だよ。その人が私に会いたいって言ってた人?」


肩辺りまで伸ばした赤いメッシュ混じりの黒髪をハーフアップにしたその人物の背丈は尊よりも高く、年齢も私達より少し上のように見える
顔立ちは何処となく尊に似ているような気もするけど、兄弟や従兄弟がいる話は聞いたことがないし…

他人の空似かと首を捻っていた私を余所に、件の人物はにこりと笑ったかと思えば急に私を抱き締めてくる


「なまえ!会いたかったぞ!」

「な、何で私の事を知って……って、痛っ!痛い痛い!」


明らかに人間とは思えぬ程の腕力で抱き締められ、私の身体が悲鳴を上げている
そんな私の状態を察してか尊はその彼を強引に引き剥がし、思いがけない一言を告げる

「落ち着けって不霊夢、なまえの骨が折れるっての。」

「おお、そうだった。すまないなまえ、痛かっただろうに。」

「…え、不霊夢?」


不霊夢と呼ばれた彼の胸元をよくよく見れば淡く発光する宝石のような物質があるのが見て取れる
それが巷で流行っている人型アンドロイドのSOLtiSである事を理解するのに然程時間は掛からなかった


「でも何で不霊夢がSOLtisを?今までの姿だと何か不便な事でもあった?」


ディスクに宿った姿も妖精みたいで可愛かったよと素直な意見を付け加えてみたもののそれに対する不霊夢の表情は悔しいような悲しいような、何とも言い難い表情をしている
…あれ、私変な事言ったかな?と尊の方を見やれば彼は苦笑しながらAiが羨ましかったみたいだよ、と告げてきた

Aiが?Aiと不霊夢に一体何の差があるのかと思考を巡らせていた所、脳裏に浮かんだのはSOLtisで自由を謳歌するAiの姿


「そっか、不霊夢もAiみたいに自由に動ける体が欲しかったんだね。」

「…む。それは半分正解で半分ハズレだ、なまえ。」


あらら、違ってた
だったら不霊夢がAiを羨ましがっている理由は何なのだろう?

頭上に幾つも疑問符を浮かべている私に対し不霊夢は柔らかな笑みを携えると、まるで硝子細工を扱うかのように優しく私の身体を抱き締める


「不霊夢?」

「私がAiを羨ましがったのはこうして好きな相手を、なまえを抱き締めたかったからさ。」

「さ、さいですか。」


好きな相手?私が?不霊夢の?
さっきから疑問符ばかりが浮かんだままで、いい加減私の脳内は渋滞どころかパンク寸前だ
しかし不霊夢はそんな私へお構い無しにやはり私はキミが大好きだ、と耳元で囁く

あまりにもシンプル、そしてあまりにもわかりやすい愛の告白
その宣言に対し、私は両頬を真っ赤に染め上げたままひたすら頷く事しか出来なかった


彼が抱いた羨望の理由

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ことり様リクエストの不霊夢夢。 主人公が人間、Aiも出てくる不霊夢夢です。気に入って頂けたら嬉しいです。
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