伝える訳にはいかないが故の苦悩
「…遅いな。」
とある休日の昼下がり
自宅近くのスターダスト・ロードが見える公園で私は一人、ある人物を待っていた
約束の時間が過ぎている事等は然した問題ではないといえ、何かトラブルに巻き込まれてなければ良いのだが…
「ご、ごめんね了見くん!大分遅くなっちゃった!」
「大丈夫ですよ、なまえさん。」
おそらく職場から急いで来たのだろう
スーツを身に纏った私よりも少し年上の女性、なまえさんは申し訳なさそうに何度も頭を下げながら平謝りする
彼女とは以前、此処の公園で出会ったのだがその後も幾度か顔を合わせる機会が続き
次第にどちらともなく好意を抱くようになっていった為、先月から付き合うようになっていた
「本当にごめんね。今日だって了見くんとのデートの日だったのに、上司から『LINKVRAINSにハノイの騎士が現れた!リーダーのリボルバーを見つけてインタビューしてこい!』…って無茶振りしてくるんだもん。」
「そうだったんですか。」
「そう簡単に見つけられたら苦労しないんだけどねえ。…まあ、ハノイの騎士が気になって記事にしようとしてるのはそもそも私なんだけどさ。」
「…なまえさんも大変ですね。」
此方に向かって困ったように眉を下げるなまえさんに対し、私は小さな苦笑を浮かべながら曖昧な言葉でその場を取り繕う
彼女が記事の為に毎日LINKVRAINS内を走り回り、苦労している事は痛い程よくわかっている
ここ最近はそれが顕著で、睡眠時間がなかなか取れていない事も知っている
「…なまえさん。」
「ん?どうしたの、了見くん。」
本当はなまえさんの苦労に報いてやりたいのは山々なのだが、そう簡単に伝える事等出来る筈もない
何故ならハノイの騎士を率いている張本人は彼女…なまえさんの眼前にいる私なのだから
「…いえ、何でも。なまえさんは仕事でお疲れでしょう。何か甘い物でもご馳走しますよ。」
「えっ、本当?……あ。でも、遅れてきたクセに奢ってもらうなんて何か了見くんに悪いような…」
「気にしないで下さい。私に出来るのはこれ位、ですから。」
そう、今の私には彼女の心身を労る事しか出来ない
心中で小さく詫びながら私はなまえさんが心配しないよう、そっと自身の手を彼女の手に重ねたのだった
伝える訳にはいかないが故の苦悩
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いろは様リクエストの了見夢。前回の続きで付き合ってる彼女が仕事でハノイの事を探してると知ってるが、中々ハノイのリーダーと云えず苦悩する感じでした。 気に入って頂けたら嬉しいです。