ほろ苦い恋心
「了見、この部分はどうすればいい?」
「さっき教えたコードがあるだろう。それを使えばいい。」
「ああ、さっきのやつね。これを此処に入れて…と。」
ある日の休日、私は幼少期からの友人であるなまえを自宅に招いてプログラム構築の手解きをしていた
何故急になまえがプログラム構築をしたいと考えたのか理由は定かではない
しかし彼女に頼まれて断る理由もなかった為、こうして付きっきりで教えていたのだ
「なまえ。どうしてプログラム構築をしたいと考えた。」
「えっと、特に理由らしい理由はないんだけどね。前に了見がやってるのを見てカッコいいなって思ったから、かな。」
そう言葉を告げると優しげな笑顔を浮かべながら此方を振り返るなまえ
私は幼い頃からなまえのこの笑顔が好きだった
そして歳を重ねるに連れてなまえの笑顔が好きだという訳ではなく彼女だから、なまえが好きな上で笑っている彼女が一番好きなのだという事に気付く
それが恋心だという事にも
だが私はなまえとの友人という近しい関係が壊れる事を恐れ、彼女に自分の想いを伝える事はしなかった
いつまでもなまえの傍にいられると、そう信じて
「…やっと出来た!やっぱり了見にお願いして良かったあ。」
「大した事はしていない。」
「そんな事ないよ。了見以外にプログラムの事を頼れる人もいないし……」
そんな中、なまえとの会話を途絶えさせる携帯電話の無機質な着信音
音の出所は彼女からだった
「…あっ。ごめん、彼からメールだ。」
私に向かって小さく謝罪しながら携帯電話を取り出し、メッセージの確認をするなまえ
それを見たなまえはとても嬉しそうな表情を浮かべており、反対に私の表情は曇り始める
…そう、なまえにはいつからか恋人がいて
私が彼女に抱いていた恋心は叶わぬ恋心となってしまったのだ
「ごめんね了見、もう少し了見と話してたかったんだけど…」
「待ってる人間がいるんだろう?…早く行った方がいい。」
嘘だ、本当は行ってほしい訳がない
「本当にごめんね。…あっ、これ今日のお礼。良かったら食べて。」
「…ああ、ありがとう。」
帰り際に手渡されたのは彼女の手作りと思われるクッキー
そのクッキーを一口食べてみた所、心なしかほろ苦く感じるような気がする
まるで自分の恋心のようだ
そんな事を考えながら、私は離れていくなまえの背をただずっと見つめている事しか出来なかった
ほろ苦い恋心
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雪苺様リクエストの了見夢。シチュエーションはシリアスで、恋人がいる主人公に好意を寄せる了見でした。 気に入って頂けたら嬉しいです。