怒りは聖なる夜の下、消えてなくなった


『すまない、なまえ。約束の時間には間に合わないかもしれない。』



クリスマス当日の夕方

恋人の遊作から電話が掛かってきたものの、その内容は以前から約束していたイルミネーションを見に行く時間に間に合わないかもしれないという内容だった


「遊作、先週も同じ事言ったよね!?もういい!私との約束なんてどうでもいいんでしょ!」

『なまえ、話を…』


遊作が何か言い掛けていたが、怒り心頭の私は勢いよく電源ボタンを押して通話を一方的に切る


だって先週も、先々週もデートが取り止めになったり急用とかで時間に遅れてきたりしたのだ

流石にこう何度も続くと苛立つのも無理はないと、きっと皆が皆そう言うだろう




「…はあ。最悪のクリスマスだよ。」


約束していたイルミネーションを一応一人で見に行ったものの、寂しさと虚しさからかちっとも楽しくない

そんな気を紛らわせようと、お気に入りの雑貨屋さんへ向かうとお店のショーウィンドウに1ヶ月位前に見掛けたネコのぬいぐるみが飾られていた



「…そういえばこの子、遊作と一緒に見つけたんだった。」


青い体躯にキレイな緑色の目をしたネコのぬいぐるみ

遊作にそっくりな子だって笑ったっけ



「クリスマスプレゼントにこのぬいぐるみが欲しいって言ったの、遊作は覚えてないだろうなあ…。」


「忘れる訳がないだろう。」

「……え?」



振り返るとそこには大きく息を切らしている遊作の姿

…もしかして、私を探す為に走って来たんだろうか



「だって遊作、今日は…」

「間に合わないかもしれないと言ったが、来ないとは言っていない。」


それは屁理屈だ

そう言おうと口を開いた矢先、眼前にとても見覚えのあるぬいぐるみが差し出される



「遊作、これ…」

「なまえが欲しいと言っていたものを忘れる筈がない。」



そのぬいぐるみは確かに私が欲しいと言っていたネコのぬいぐるみで

約束の時間に間に合わなかった事やデートがダメになった事、他にも沢山文句を言いたかった筈なのにその怒りはあっという間に吹き飛んでしまっていて



「…っ、遊作大好きっ!」


私は遊作と遊作そっくりなネコのぬいぐるみを一緒に抱きしめた


怒りは聖なる夜の元、消えてなくなった

―――――
イルミネーション、キレイですけど電気代が幾らかとかそんな事を気にしてしまいます。
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