知ってしまったが故の苦しみ
「…ふう。」
『どうしたあばたー、溜め息を吐いて。』
「ライトニング。」
電脳空間内に作られた宮殿の窓辺で黄昏ていた私に声を掛けてきたのは他でもない、私を創った創造主であるライトニングだった
「別に、何でもない。これからどうなるのかちょっと考えてただけ。」
これからというのはライトニングがPlaymaker達に告げた人間を支配するという、宣戦布告の事
今後彼等は人類の存続を賭け、ライトニング達を止める為にデュエルを挑んでくるだろう
『わかっていると思うがあばたー、キミを創ったのは我々の障害となる者を排除する為だ。』
「わかってる。私は所謂、露払いって事でしょ?」
『そうだ。そして恐らくキミの相手はSoulburnerになる。』
「Soulburner…」
『今後の戦いに備え、今から英気を養っておくといい。』
それだけを告げるとライトニングはオリジンの草薙仁と共に姿を消してしまう
「…Soulburnerか。」
Soulburner、炎を体現したようなデュエリスト
実の所、私は正体を隠して彼と何度か接触していた
何故そんな事をしたかというとPlaymaker側の情報の錯綜、混乱を目論んでいた訳で
Playmakerよりもまだ騙しやすそうなSoulburnerに目を付けた私は彼に接触、此方側の真実を一部織り混ぜた偽りの情報を彼に伝えていた
当初は訝しんでいた彼だったが逢瀬を重ねるうちに少しずつ信じてくれたのか、私に笑顔を見せるようになってくれていて
いつの間にかそんな彼に惹かれ始めている私がいた
だがその想いを自覚し始めた矢先にライトニングが人間に対する宣戦布告をした為、望んでいない形で彼に私の正体がバレてしまった
「あばたー!お前…ずっと俺を騙してたのか!?」
ライトニング側に現れた私に対し、驚きと怒りの炎を瞳に宿しながら此方を見つめるSoulburner
彼のあんな顔を見るのは初めてだった
「…そう。貴方に接触したのは情報を錯綜させる為。本当はもう少し引っかき回すつもりだったんだけどね。」
「お前…!」
最初はそうだった
でもいつからかそんな考えは消え失せ、彼と会う事自体が楽しみになっていた
「人間は従順な動物よ。どんな事にも馴れてしまう存在なんだから、AIに支配される事にもきっと馴れるわ。」
「…本気でそう思ってんのかよ。」
嘘、本当はそんな事思ってない
でも私はライトニングに創られた存在、彼の意に背く行動は出来ない
「勿論。貴方を騙せなかったのは残念だけど、AIが支配する世界を貴方にも見せてあげる。…さよなら、Soulburner。」
「待て、あばたー!」
あの時から早数日
もう二度と彼と会う事はないと思っていたのに、ライトニングは私がSoulburnerと戦う事を望んでいる
「…こんなに苦しい思いをするなら、感情のないAIに創ってくれれば良かったのに。」
感情がなければこんな思いをしなくて済んだのに
後悔と悲しみの感情で痛む胸を押さえながら、私は人知れず涙を零したのだった
知ってしまったが故の苦しみ
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一部ドストエフスキーの言葉を引用しています。