さよなら、恋心
『キミ初めて見る子だね。なんて名前?私はなまえっていうの。』
『…ゆうさく。藤木、遊作。』
『遊作くんかあ。ねえ遊作くん、私と一緒に遊ぼうよ!』
「…夢か。」
普段よりも早い目覚めの所為か、先程まで見た夢の内容が鮮明に思い起こされる
しかし、今日のそれは夢というよりも記憶の追体験のようなものに近かった
ロスト事件後俺は一時的に施設へと保護されたのだが事件のショックはあまりにも大きく、誰とも馴染めず一人でいる事が多かった
その中で唯一、毎日俺に話し掛けてきた一人の少女がいた
なまえと名乗ったおよそ10歳程の少女は毎日俺の元へとやってきて本を読んだり、折り紙を折ったり…暇さえあれば俺の所へとやってきたのだ
最初は戸惑ったものの、毎日傍にいてくれる少女…なまえに対し俺はいつしか親愛のような、淡い想いを抱いていた
だが終わりというものは呆気なく訪れるもので
おそらく新たな家族が見つかったのだろう、ある日を境になまえは施設からいなくなり、俺もその施設を離れた為になまえとはそれっきり
二度と会う事はないと、そう思っていた
「あっ!ねえねえ、次はあのお店に行きたい!」
その日の夕方
学校終わりに草薙さんの所へ向かっていた所、一人の女性とすれ違う
何処となく見覚えのあるその顔立ちに振り返ってみれば記憶の中とは随分差異はあったがその女性は確実にあのときの少女、なまえだった
偶然とはいえ、10年ぶりの再会
彼女に声を掛けたい
そう思って手を伸ばし掛けたものの、その手は途中で止まってしまう
「何処だ?」
「ほらあそこ!あの可愛いお店!」
視線の先に見える彼女の隣には仲睦まじく話す男の姿がいた為、きっと俺が声を掛けても怪訝な顔をされるだけだろう
それにこうして彼女…なまえが幸せにしているのなら、それだけで十分だ
「…ありがとう、さよなら。」
無意識に出たそれは彼女に向けた言葉だったのか否か、俺にもわからない
だが一つだけ言えるのは胸が痛む程、俺はなまえが好きだったという事だった
さよなら、恋心
―――――
疲れてるとどうしてもお話がシリアス風になってしまいます。