愛する事に心配は尽きない
「…雨足が強くなってきたな。」
ある月末の金曜日
昼頃から降り始めていた雨は激しさを増していき、夕刻にはすっかり大粒の雨が降り注いでいる状態になっていた
「なまえさんを迎えに行くか。」
なまえさんは私より2つ年上の恋人で今日は彼女と食事の約束をしていたのだが少しぼんやりした所のあるなまえさんの事だ、きっと天気予報を見忘れて傘は持っていないだろう
そう考え、私はなまえさんの仕事が終わる時間を見計らって自宅を後にした
そして彼女の職場まで後少しといった所なまえさんともう一人、同僚と思しき男が彼女に声を掛けている光景が視界に入る
会話は聞こえないが雨を口実になまえさんを送っていこうとしている、おそらくそんな所だろう
「なまえさん。」
「了見くん!迎えに来てくれたの?」
「まあ、そんな所です。」
私がなまえさんの名を呼ぶと彼女は驚きながらも嬉しさを露にし、此方へ笑顔を向けてくれる
「これ以上此処にいたら冷えますよ。帰りましょう、なまえさん。」
「あ、確かに。送ってくれようとしたのにごめんね山本くん、気を付けて帰ってねー。」
やはり雨を口実になまえさんへ近付こうとした男だったようだが…残念だったな、彼女は私の恋人だ
そんな少しばかりの優越感に浸っていた所、なまえさんに何故迎えに来てくれたのかを尋ねられる
「なまえさんは少しぼんやりした人だから、傘を忘れたんじゃないかと思ったんです。予想通りでした。」
「凄いね了見くん!超能力者みたい!」
「なまえさんの事だけですよ。」
なまえさんは誰にでも分け隔てなく優しく仕事もそつなくこなすが、少しだけぼんやりとした所も見られる愛らしい女性で
そういった部分が他人から愛され、庇護欲を掻き立てるのだと思う
「でもちょっと心配だなあ。了見くんはカッコいいし、頭もいいし…他の女の子が寄ってくるんじゃないかって思ったりもするんだ。」
幼子のように水溜まりを軽快なジャンプで飛び越えながら、なまえさんはぽつりと呟く
むしろ心配なのは私の方だ
誰にでも優しい彼女へ言い寄る男等、私が知らないだけで沢山いるのかもしれない
「なまえさん。…それは私も同じですよ。」
「え?」
「…いえ、何でも。そんな事より今日はなまえさんの手料理が食べたい気分なんですが。」
「いいよー。なまえさん特製のおいしいカレーを作ってあげるからね。」
「それは楽しみです。」
私が呟いた言葉はなまえさんの耳には届かなかったようで、彼女は何処か嬉しそうに笑いながら私の腕へとくっつく
なまえさんへの心配事は尽きないが彼女が私を愛してくれている、それだけは疑いようもない事実な訳で
私はなまえさんに気付かれぬよう、小さく頬を緩ませたのだった
愛する事に心配は尽きない
―――――
間が空いたので最初の構想と少しずれた気がします。