新雪に隠した感謝の言葉
ある日の早朝
凍るような空気の冷たさに目を覚まし、窓の外へ視線をやると辺り一面が銀世界に包まれている
「…寒い理由に納得がいった。」
睡眠中に降って一気に積もったのだろう、窓辺にもうっすらと雪が積もっているのが見てとれる
こんな日は外へ出ず、屋内で作業をしていようか
そんな事を考えていたものの、玄関のチャイムが鳴るとほぼ同時に勢いよく扉が開かれる
「おはよ、遊作!ねえねえ雪だよ雪!雪がいっぱい降ったよ!」
扉の先に現れたのは幼馴染のなまえで、彼女は目をキラキラと輝かせながら広がる雪景色を指差す
「見ればわかる。それより早く扉を閉めてくれ、寒い。」
「何言ってんのー。子供は風の子、元気な子だよ。一緒に雪だるま作ろっ!」
「なまえ一人で作れば…」
「早く早く!」
…結局なまえに連れ出され、玄関に程近い小さなスペースに俺となまえは小ぶりな雪だるまを作り始めた
「雪って真っ白だし、キラキラしててキレイだよね。私、冬って好きだなあ。」
「…俺は別に好きじゃない。」
固めた雪玉を新雪の上で転がしながら俺はぽつりと呟く
何処までも真っ白で汚れのない白銀の世界は太陽の光を浴び、眩しい程に光輝く
今の彼女…なまえのように
復讐に囚われた俺にとっては何も知らない、純粋ななまえとの違いを浮き彫りにされているようで何処となく嫌だったのだ
「遊作?」
「あ…いや、何でもない。」
彼女には俺の過去を何一つ知らせていないし、彼女自身も察しているのかはたまた興味がないのか、何も聞こうとしない
これでいいんだと自分を納得させ完成した小さな雪だるまを眺めていた所、不意に雪で冷たくなったなまえの両手が俺の頬を包み込む
「…なまえ?」
「あのね、遊作は頭がいいからいろいろ考えちゃうんだろうけど。」
何があっても私はずーっと、遊作の味方だよ!
何でもない、なまえからの単純な言葉
その言葉が何よりも嬉しく思う自分がいる事に少しだけ、驚く
「…ありがとう、なまえ。」
「え、何か言った?」
「…何でもない。」
…それでも面と向かって感謝の言葉を告げるのは何処か気恥ずかしい部分もあり、
結局自分の本心は隠したまま、俺は言葉を濁してしまうのだった
新雪に隠した感謝の言葉
―――――
冬は好きです。体はツラいんですけど。