unrequited love
「あっ、みょうじ先輩。」
「こんにちは、穂村くん。穂村くんも今帰り?」
「は、はいっ!」
草薙さんの店へ行く途中の道すがら、学校の先輩であるみょうじ先輩を見つけた為声を掛けた所、みょうじ先輩は優しげな笑顔を浮かべながら此方へ振り返る
「あ、あの!この間先輩が勧めてくれた本、凄く面白かったです!」
「本当?良かった。あれね、私のお気に入りだったんだ。」
優しく微笑むみょうじ先輩がとても綺麗で、僕は思わず見とれてしまう
「穂村くん?」
「す…すみません、ぼーっとしてて!」
「もしかして寝不足かな?あんまり夜更かししちゃ駄目だよ。」
小さく笑みを零し、ヒラヒラと手を振りながら帰路へと就くみょうじ先輩
会話出来たのはたったの数分だったが、それだけでも僕の心は十分満たされていた
2つ学年が上のみょうじ先輩と出会ったのは転校初日の日の事で、調べ物の為に図書室を探して迷っていた僕に優しく声を掛けてくれたのが始まりだった
読書が好きだと話すみょうじ先輩との切っ掛けが欲しくて自分も本が好きだとちょっとだけ嘘を吐いてしまったのだが、先輩は喜んで沢山の本を勧めてくれた
みょうじ先輩から勧められた本はどれも面白くて、直ぐに読みふけってしまった位だ
きっとみょうじ先輩は僕の事を単なる読書仲間とでも思っているんだろう
でも、僕は違う
もっとみょうじ先輩の事を知りたい、願わくば先輩の隣で一緒に歩いていきたい
日に日に強くなる想いを内に秘めていた数日後の日曜日、参考書を買いに出掛けた書店で僕は偶然みょうじ先輩を見つけた
「みょうじせんぱ…」
偶然の出会いに嬉しくなった僕は先輩の名を呼ぼうとしたが、思わず呼び掛けるのをやめてしまう
何故ならみょうじ先輩の隣には見た事のない男の人が立っていたからだ
僕よりも年上に見える長身のその人は褐色肌とそれに映えるような白銀の髪を持つ、所謂美形といった類の人間で
みょうじ先輩はその人に向かって今まで見たことのないような笑顔を浮かべていて、直ぐに特別な関係なのだと理解してしまった
その光景にどうする事も出来ず眺めていただけだった僕に気付いたのか、隣の彼は鋭い眼光を此方へ向ける
お前に望みはないと、そう言わんばかりに
「あれ、どうかしたの?」
「…いや、何でもない。行こう、なまえ。」
『なまえ』
いつか呼びたかった、その名前
そしてきっともう呼ぶ事の出来ない、みょうじ先輩の名前
「…報われない恋って、こんなにツラいものだったんだな。」
此方に気付かずその彼と書店を去っていくみょうじ先輩を見つめながら僕は一人、ただその場に立ち尽くしている事しか出来なかった
unrequited love
―――――
意味は『報われない恋』だそうです。