俺の気持ちをまだ知らないアイツ
「あー、やっぱり此処にいたね尊。」
「なんだ、なまえか。」
学校が終わったであろう夕暮れの時間帯
俺と綺久の幼馴染であるなまえが灯台の元で座り込んでいた俺に向かって声を掛けてきた
「まっ、女の子に向かって失礼なヤツ。それよりもはい、コレ。」
「…何だコレ?」
「何って、見ればわかるでしょ。」
若干の不満を漏らしながらも俺の隣に座ったなまえが差し出してきたのは薄桃色の可愛らしい封筒
それはどう見ても所謂、ラブレターという名称のものにしか見えないんだが
「まさかなまえが、」
「それ、隣のクラスの田中さんから。尊に渡してって頼まれたの。」
「……いらねえ。」
「いらないって…私に返されても困るんだけど。」
よく知りもしない女子からの手紙を受け取るつもりは毛頭なかった為なまえに突っ返すと少々困ったように眉を下げるなまえ
いや、どっちかって言うと俺の方が困ってんだが
「尊、先週も先月もこうやって私が手紙を預かってきたのに一通も貰ってくれなかったよねえ。」
「ほとんど知らないような相手から手紙を受け取ってくれって言われて、誰が受け取るんだよ。」
「うーん…まあ尊の言い分もわかるけど。でもその手紙を返す時に女の子達が残念そうな顔するの、何だか申し訳なくてさ。」
そもそもこうしてお人好しな…俺が密かに片思いをしてるなまえを使って手紙を渡そうとする女子なんてロクなヤツじゃないだろ
「もしかして、尊がラブレターを頑なに受け取らないのは好きな子がいるから…とか?」
「は、はあ!?な、何でそんな……べ、別になまえには関係ないだろ!?」
「尊ってば顔赤くしちゃって可愛いー。やっぱり好きな人いるんだあ。ね、どんな子?」
…女子ってのは本当にこういう話が好きらしい
なまえはこっちの気持ち等お構い無しに距離を詰め、ぐっと顔を近付けてくる
「……絶対言わねえ。」
「えー。別に私一人位、教えてくれたっていいじゃーん。」
「お前だから言わないんだよ。」
「何それ?変なのー。」
「少なくともそういう運び屋みたいな真似してるうちは言わねえからな。」
俺の言葉に納得がいかないのか小さく頬を膨らませるなまえ
その変な所で鈍い性格とお人好し過ぎる人柄、それを治したら言ってやるよ
なまえが好きだってな
俺の気持ちをまだ知らないアイツ
―――――
俺時代の穂村夢です。