全ては彼が仕組んだ罠


「みょうじ。」

「あ……藤木くん。藤木くんも今帰り?」


学校からの帰り道

部活が終わり帰路へ就いていた私にクラスメイトの藤木くんが声を掛けてくれた為、私は笑って言葉を返す



「何かあったのか。」

「え?」

「暗い顔をしている。」

「え、えっとまあ…ちょっと、ね。」

「みょうじ、何が…」

「ほ、ホントにちょっとした事だから。気にしないで、藤木くん。」


その後藤木くんが何かを言いたそうにしたものの、それを曖昧な言葉で濁しながら私はその場を慌てて立ち去る



「…流石に身の回りでおかしな事が起きてるなんて、クラスメイトには言えないよ。」


あまり人に気付かれにくい細い路地に入った私は一人、大きな溜め息を吐きながら表情を曇らせる



始まりは鞄の中に入れていたポケットティッシュがいつの間にか無くなっていたという、本当に些細な事だった

使いかけだったから何処かに落としたか使い終えたのを忘れたのだろうと考え、大して気にしていなかった


だが次第にハンカチやお気に入りのキーホルダー等が無くなっていき…遂に先週末、鍵を掛けていた筈の私のロッカーに何処かで隠し撮りをしたと思われる私の写真が何枚も入っているという事態に発展してしまった

私は基本的に喧嘩なんてしないし、問題事に首を突っ込むなんて事もしたことがなかったから本当に身に覚えがないんだけど…



「…いいや。もう帰ろ……っ!?」


あれこれと考えを巡らせた所で答えが出る筈もなく

そろそろ本気で家に帰ろうとしたまさにその瞬間、誰かに右腕を強く掴まれ路地奥に引っ張られた私は抵抗する間もなく何かの薬品を嗅がされ、意識を失ってしまう




私…この後どうなるんだろう

ああ、私の人生は此処で終わりなのかな


そんな事を考えていた私の耳に届いたのはみょうじと何度も呼ぶ、誰かの声

その声が藤木くんだと気付くのにそう時間は掛からなかった


「……藤木、くん…どうしたの?」

「それはこっちの台詞だ。みょうじの両親がお前が帰ってこないと、血眼になって捜していたんだぞ。」

「そう、なんだ……っ!?」



ようやくはっきりしてきた意識と視界に安心したのも束の間、私の右腕にはあの時掴まれた痕がくっきりと残っていた

先程の恐怖を思い出してしまった私は顔面蒼白になりながら震えてしまったのだが、それを見た藤木くんは無言のまま強く私を抱きしめる


「…ふ、藤木くん?」

「みょうじに何があったか、俺は知らない。…だが、みょうじは俺が守ってやる。だからもう、何も心配するな。」

「……っ、ありがと…藤木くん。」



そう言った藤木くんの声はとても優しく

私は色々な感情が溢れ出てきてしまい、彼の腕の中で泣き出してしまう


この時の私は何も知らなかった

私を抱きしめていた藤木くんが少しだけ、笑っていたことを


全ては彼が仕組んだ罠

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タイトル通りです。
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