君の声が聞けただけで
「あー、今日も疲れたー。」
仕事から帰ってきた私はスーツがシワになるのも構わず、ベッドへ勢いよくダイブする
最近は仕事がとても忙しく、今日でもう10日も残業続きだ
「はあ…。最近全然、遊作くんと会えてないなあ。」
ゴロゴロとベッドの上を転がりながらスマホの待ち受けにしている彼とのツーショット写真を眺める
草薙さんを通じて知り合った遊作くんは私より少し年下の高校生で物静か…というか、凄くクールで大人っぽい男の子だ
そんな遊作くんと紆余曲折を経て恋人同士となったのだがここ最近は私の仕事が忙しく、残業が始まってから会えていないし話せてもいない
「…ちょっとでも声、聞きたいかも。」
そう考えて通話ボタンを押そうとしたものの、今の時刻は夜の22時
彼が起きている可能性はなきにしもあらずだがこんな時間に電話をしたら迷惑だろうし、明日もきっと残業だろうから私自身もあまり夜更かしは出来ない
話したい気持ちをぐっと堪えて画面を閉じた瞬間、鳴り響く着信音
まさかと思い慌てて画面を開けばそこに表示されていた名前はまさに今、私が話したいと願っていた人の名前だった
「もしもし。」
『夜遅くにすまない、なまえさん。』
「ううん、大丈夫大丈夫!でも珍しいね、遊作くんが電話を掛けてくるなんて。」
遊作くんとの連絡は私から電話をする事がほとんどで、彼からは私の仕事に支障がないようにといつもメールを送ってくれていたのに
『…声が、』
「えっ、声?」
『迷惑を承知で、なまえさんの声が聞きたくなった。…仕事で疲れているのに、すまないとは思ったんだが。』
「迷惑だなんて、そんな!全然そんな事ないよ!」
むしろこのタイミングで遊作くんの声が聞けたおかげで、今まで感じていた疲れが嘘のように吹き飛んでしまう
「遊作くん。明日、ちょっと遅くなるかもしれないけど久しぶりにデートしよっか。」
『だが、なまえさんの仕事が…』
「いや、明日はどんな手を使っても残業は1時間で済ますから。むしろ有給を取る事も厭わないよ、私。」
『…わかった。じゃあ、明日を楽しみにしてる。』
スピーカーから聞こえてくる遊作くんの声は何処となく嬉しそうで
その声を耳にした私も凄く凄く、嬉しくて
明日の仕事は自分史上、最も気合いの入ったものになりそうだと自負していた
君の声が聞けただけで
―――――
残業続きで現実逃避してた時のネタです。