永遠に守られる事のない、約束
「ボーマン、何処か行くの?」
「ああ、なまえか。」
電脳空間内に作られた城の中で読書をしていた所、私の前をボーマンとハルが通り掛かる
先日草薙仁の意識データは手に入れてきたものの、Playmakerに敗れた彼は暫く調整を施されてると聞いていたのに
「Playmaker…ヤツは偽物、俺こそがオリジナルの本体なのだ。ヤツを倒し、俺は俺自身の体を取り戻す!」
「…そう、なんだ。」
作られた仮初めの記憶喪失の次は自分がPlaymakerの本来の人格だという記憶を与えられたのね
デュエルの回数を重ねる事によって、ボーマンは更に成長していく
その事を頭では十分理解していたつもりだったが、成長の為とはいえ様々な記憶が原因で振り回される彼に私はいつからか哀れみの感情を覚えるようになっていた
「どうしたなまえ、浮かない顔をして。」
「え?あ…えっと……」
「心配せずともなまえは俺が守る。誰にも指一本、触れさせる事はしない。」
こうして私を守ろうとしてくれるのも、彼に植え付けられた記憶の所為
守るべき存在がいた方が都合がいいと弟にはハルを、恋人としての存在に私がいるという記憶がボーマンには植え付けられている
ハルも私も、彼を監視する役割しか与えられていないのに
「ボーマン、あのね…」
「兄さん、早く行こう。」
ボーマンに声を掛けようとした瞬間、何かを察したハルに言葉を遮られてしまう
まるで余計な事は口にするなと言わんばかりに
「わかってる、ハル。…なまえ、話は戻ってから聞こう。約束だ。」
きっと彼が戻ってきた時には今の記憶を消され、また新たな記憶を植え付けられる
だからこれは永遠に守られる事のない、約束
「…わかった。約束、だよ。」
それでも彼に真実を伝える事は許されず
何度目かわからない約束を自分の胸にしまいこみ、私はただボーマンを見送る事しか出来なかった
永遠に守られる事のない、約束
―――――
シリアス風味の初、ボーマン夢。