気付かない、気付いてはいけない本心


「Playmaker…」



ある一室で持参したノートパソコンのキーボードを叩きながら私は現在、狙いを定めている賞金首の名を口にする


ヤツの情報は十分得られたと考えPlaymakerとイグニス、両者を捕らえる為にデュエルを挑んだのだが、まだ不十分だった事が原因で自身の敗北を招いてしまった

次は確実にヤツを仕留めてみせる


決意を新たに再度画面へ向かった瞬間、急に右頬に冷たさを覚える

驚いて其方を振り返ると一人の女が私の頬に缶ジュースを押し当てていた



「仕事の邪魔をするな、なまえ。」

「だって健碁の顔、すっごく険しい顔してたからさ。ちょっと息抜きした方がいいと思って。」

「息抜きなど不要だ。」

「まあまあ、ジュース位飲みなよ。ほら。」


そう言って私に缶ジュースを押し付けるこの女はみょうじなまえといい、かつて私が事故で入院してた際に院内で知り合った女だ


如何にも能天気で病気とは無縁そうなこの女、なまえもAIの不具合か動作不良が原因で事故に巻き込まれたらしく

なまえの左足は義足となっていた


だがなまえはAIを憎んだりする事はなく仕方のない事だと

人間でも間違いはあるのだから機械の不具合もあると思うと言って現状を、ただありのままの自分を受け入れていた



「何故だ。」

「え、何が?」

「お前はAIの所為で自分の片足を失った。AIが憎くはないのか。」



あの時、あのタクシーに搭載されたAIが不具合を起こさなければ私や母の人生は全く別のものになっていただろう

そう考えると私はどうしてもAIに対する憎悪を消しきれずにいた



「そうだねえ……自分の足が動かなくなった時はそりゃショックだったけどさ。隣の病室にいた健碁がリハビリを頑張ってるのを見て、私も頑張らなきゃなあって思ったんだ。だからAIの事は正直、どうでもいいかなって。」

「私がリハビリに励んでいたのは全てAIを憎むが故の行動だ。」

「理由なんて何だっていいんだよ。健碁が頑張ってたから、私もリハビリを頑張れたんだし。」



そう言って満面の笑みを浮かべるなまえ


屈託ない純粋なその笑顔

私はなまえのこの表情が苦手だった

この笑顔を見ているとAIへの憎悪が掻き消されていくような、そんな感覚を覚えるからだ



「ねえ健碁、軽食にパンケーキ作ったんだけど食べる?」

「…また焦がしたものを食べさせる気じゃないだろうな。」

「むっ、今日は焦がしてないし!」



苦手だと言いながらなまえの元にしばしば通っている

自らの言動と行動の齟齬には気付かないふりをし楽しげな様子で軽食の準備を進めるなまえをただ、私は遠目から見つめるのだった


気付かない、気付いてはいけない本心

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リアリストな道順さん、嫌いじゃないです。
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