ただ面倒な人間だと思っていた筈なのに
「よ…っと。もうそろそろ時間かな。」
いつも僕達がいる空間から息抜きがてら、LINKVRAINSへと足を踏み入れる
本来なら身バレを避ける為にも単独行動は控えるべきなんだろうけど、兄さん…いや、ボーマンのお守りだってそう楽なもんじゃない
僕にもちょっとした息抜きだって必要だ
それに誰にも言ってはいないけど、息抜き以外にも僕にはLINKVRAINSへ行かなきゃいけない理由があった
「おーい、なまえ。僕だよ、僕。」
樹木が生い茂るエリアの一角で、僕はある人物の名を呼ぶ
するとその樹木の一本からひょっこりと見知った人物が姿を現した
「あはは!僕だよ、僕って何かちょっとした詐欺師みたいな言い方だね。」
「減らず口は相変わらずみたいだね、なまえ。」
姿を現したその人物はなまえという名の極々一般的なプレイヤーだ
何故そんな人物と僕が会っているのかというと、それには少々面倒な理由があった
ある日僕は新生LINKVRAINSの調査に来ていたのだが、あらゆる場所が一新されていて僅かに興味が沸いた僕は調査を終えてから少しだけ寄り道をしてしまう
その際、何処かで僕の姿を見たんだろう
僕はLINKVRAINS内にて、変わり者で有名な彼女の興味のターゲットにされてしまったらしい
撒いても撒いてもそれはしつこく追い回され、先回りされた彼女にデュエルを挑まれる
その結果は勿論僕の勝利になった訳だけどまた次、その次も自分とデュエルをしろと言われる始末
再び逃げようと考えてはみたものの、先程のしつこさがLINKVRAINSを訪れる度に続くと思うとげんなりする
結局僕の方が根負けしてしまい週に一度、なまえとデュエルをするという約束を取り付けられてしまったのが事の真相だった
「よーし、今日こそハルに勝つよ!」
「まあなまえには無理だろうね。」
「その余裕に満ちた顔、超ムカつくー。」
ムカつくと言いながらもなまえの顔は何処か楽しげで
何度も何度も負けているクセに、楽しそうに笑う彼女の心情が僕には全く理解出来なかった
「なまえはさ、何度も僕に負けてるクセに何でそんな笑ってんのさ。ドMなの?」
「いやいや、ドMな訳ないじゃん!だって何か、ハルとデュエルしてると楽しいんだもん。」
「楽しい?」
デュエルなんて勝つか負けるか、それ以上でもそれ以下でもないだろ
何でそんな事に楽しみを感じているんだか
「そう言うハルも楽しそうだけどね。」
「……は?」
そんな、まさか
僕はただ仕方なくなまえに付き合ってやってるだけで、そんな事がある訳…
「ねえ、早くデュエルやろうー。」
「あー…もう。ハイハイ、わかったよ。」
なまえの楽しそうな、キラキラとした瞳を見てたら悶々と考えてるのが馬鹿らしくなってきた
もうサクッと彼女に勝って、さっさと帰ろう
自分の心境の変化に気付かないフリをしながら、僕はなまえに向き直ったのだった
ただ面倒な人間だと思っていた筈なのに
―――――
ハルもデュエルするかな、と思いまして。