未だ気付いていない本心


俺がサイバース世界から遊作の所に戻って来たのが3日前

そして、アイツらの仲間であるなまえの所へ顔を出したのがつい昨日の事だ


この世界に来てから一緒に遊んだり、遊作に邪魔だと言われ車から同時に追い出されたり…とにかくなまえと俺は仲が良かったんだ

それなのに…



「あー、可愛いっ!リンクリボーはホントに可愛いなあ。」

『クリクリンクー?』

「何言ってるかわかんないのが一番残念な所だけど、それ抜きにしてもやっぱり可愛い!」

『クリクリー。』

『……。』



何かなまえ、スゲー俺の事無視するんですけど!?


『あのー…もしもし、なまえさん?リンクリボーもいいけど、俺の事も少しは気にして…』

「このまんまるなボディが可愛いよねえ。勿論大きさも可愛いサイズだけど。」

『完全にシカト!?』


俺の声も聞こえてるし姿も見えてる筈なのに、なまえは俺の存在を完全にシャットアウトしている

…え。もしかしてコレ、超怒ってる?



「家に持ち帰りたいけど、デュエルディスク持ってったら遊作が怒るしなー。」

『なあなまえ。何で怒ってんのかわかんないけど、いい加減会話位しようぜー。』

「…私のディスクにリンクリボーが行き来出来るプログラムとか作れないかな。」

『はい、2回目のシカト!』



俺、何かなまえを怒らせるような事したっけ?

そんな記憶はない、…と思うんだけどな


悶々としながら首を傾げていた中、今まで無視を貫き通してきたなまえが不意に人差し指で俺の頭に軽く触れた



『なまえ?』

「……だってAi、私には何も言わずにサイバース世界へ帰っちゃったじゃん。」


そう言ってなまえは小さく頬を膨らませる

確かにあの時なまえは体調を崩して寝込んでたから、なまえには何も言わずに帰っちまったけど…



「そりゃあの日、寝込んでた私にも非はあるよ?でもあれだけ遊んだり、一緒に過ごしてた相手が急にいなくなったらAiはどう思う?」

『まあ、挨拶位してけよ!…とは思う。多分。』

「それと一緒だよ。」


一頻り言いたい事を言い終えたなまえは再び俺から視線を逸らし、そっぽを向いてしまう


そして俺はなまえに言われた事を自分に置き換えてみる


例えるなら俺の前からある日突然なまえが何も告げず、連絡先も教えずに何処かへ引っ越しちまう…ってトコか

…例え話なのに涙すら出てきそうな悲しさだ



『…ゴメン、なまえ。俺が悪かった。』

「わかってくれたならいいよ。…でもね、もし今度サイバース世界へ帰る時はちゃんとお別れの挨拶、してってよ。」



…お別れの挨拶、か

あの時は故郷に帰りたい一心だったから気付かなかったけど、改めてなまえと離れる事を意識すると何だか胸が苦しくなる


「Ai?」

『え?あー、勿論。約束するぜ。』

「ホント?じゃあはい、コレ。約束の印。」


そう言葉を告げるのが早いか否か、なまえは小指を此方に向ける

所謂、指切りげんまんってやつだ



『よーし、指切りげーんまーん…』


軽快に歌いながらなまえと約束の指切りをしていた俺だったが

このまま別れなんて来なければいいのにと思う自分が心の隅にいた事に、今は気付いていなかった


未だ気付いていない本心

―――――
最初は甘い話の予定でした。
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