この感情を理解するのはもう少し先の話
「…ん?」
とある日の放課後
学校とやらが終わった尊が帰路に就いていた所、ディスクに誰かからのメッセージが届いたようだ
だが尊はメッセージを見た瞬間何とも言い難い、微妙な表情を浮かべながら立ち止まってしまった
『どうした尊、可笑しな顔をして。』
「…なまえから明日Dencityに行くから、街中を案内しろってメッセージが来ててさ。」
『おお、なまえが此方に来るのか。久しぶりじゃないか。』
メッセージを送ってきたなまえという人物は尊より1学年上の幼馴染で
ロスト事件以降引きこもりがちだった尊の事を時に見守り、時に叱咤激励しながら彼を支えてきた人物だ
「いや、まあ…そうなんだけどさ。」
『嫌なのか?』
「嫌じゃないよ。ただ…明日は色々と振り回されそうだな、と思ってさ。」
そう言って小さく溜め息を吐く尊
だが、振り回すとは語弊があるぞ
なまえはなまえなりに君を元気付けようとしているだけなのだ
ほら、その証拠に…
「…ていっ!」
「痛っ!…え、なまえ!?何で此処に?」
「ふっふっふ。尊には内緒にしてたんだけど、実はもう昨日からDencityに来てたんだよね。」
「僕には…?……あっ、不霊夢!お前、知ってたんだな?」
『なまえからは秘密にしてほしいと頼まれたからな。悪いが君に知られる前にメッセージは削除させてもらった。』
「ドッキリ大作戦、大成功ー!手伝ってくれてありがとね、不霊夢。」
『御安いご用だ。』
作戦が上手くいって上機嫌ななまえは満足気な笑みを浮かべながら人差し指で私とハイタッチを重ねる
少し前にサイバース世界が崩壊し尊と初めてコンタクトを取った際、その場にいた彼女とも知り合う事になった
異形のものとも取れる私を恐れる事はせず、捕獲する事もなく普通にただ受け入れてくれたなまえ
尊が前に進む道筋を整えてくれたのは勿論ネット音痴な彼がアバターを作り上げられたのも私となまえの功績が大きい為、尊はあまり彼女に頭が上がらなかったのだ
「はあ…もういいよ。じゃあ今から街中を案内しろって事なんだろ?」
「流石尊、話が早いね!」
「…とは言っても、僕もまだこの街に来たばかりだから詳しくは知らないんだけど。」
『君がきっとそう言うと思って、彼女が喜びそうな店や場所をピックアップしておいた。参考にするといい。』
「不霊夢ってば有能!大好き!」
その後彼女は私への賛辞を口にしながら眩しい程の笑顔を私に向ける
サイバース世界が崩壊する以前、私達イグニスは人間を信頼するか否かの議論をした事があった
人間は信頼するに値しないと口にしたイグニスもいたが、私は少なくとも尊やなまえは信頼出来る人間だと思っている
特になまえに関しては信頼以上に別の何かがあるような気がするのだが…それが何なのか、今の私にはわからない
「楽しみだね、不霊夢!」
『ああ、そうだな。』
…この感情が今はわからぬとも、あらゆるデータを重ねていけばいつか理解出来る日が来るだろう
尊の横で楽しそうに笑うなまえを見つめつつ、そっと私はデュエルディスクの中へと戻った
この感情を理解するのはもう少し先の話
―――――
初の不霊夢夢。