無意識下の癒し
「ごめんなさいね、急にこんな事を頼んでしまって。」
「いえ、大丈夫です。」
「夕方には迎えに来るから、その間だけお願いね。」
「わかりました。」
そう言って彼女…バイラは申し訳なさそうにしながら私の家を後にする
「ねえねえ。おばちゃん、どこいったの?」
「彼女は仕事だ。」
私の横で身の丈の半分程あるクリボーのぬいぐるみを抱えた幼子、なまえは不思議そうに首を傾げながら尋ねる
なまえという名の幼子は両親が不運な事故で入院しているらしくその間、親戚であるバイラが預かる事になったらしい
だが今回どうしても外せない仕事が入ってしまったらしく、私に1日面倒を見てくれるよう頼んできたのだ
しかし、今まで子供の相手をした事のない私にこの役が務まるのかどうか
そんな事を考えていた最中、なまえが私の服の裾を引っ張る
「どうした。」
「おにいちゃん、いっしょにあそぼ!」
「悪いが私にはやる事がある。暫く一人で…」
そう言って視線を向けた所なまえは大きな瞳を潤ませ、今にも泣きそうな表情を浮かべている
ここで泣かれてしまうと最早私にはどうすることも出来ない事等、火を見るよりも明らかだ
「…わかった。何をして遊びたいんだ。」
「……!あのね、おえかき!」
私が了承の言葉を告げれば先程の泣きそうな顔は何処へやら、直ぐに満面の笑みを浮かべるなまえ
子供とは本当に単純なものだ
そんな事を考えつつ、私は暫くなまえの遊び相手を務める事になった
…とは言っても、子供というものは本当に1秒も大人しくしていられないらしく
さっきまで画用紙に絵を描いてたと思ったら今度は折り紙、次はかくれんぼと部屋の中を所狭しと走り回っていた
「…ようやく静かになったか。」
そんななまえが大人しくなったのは昼食を食べ終えてから暫くした後
まるで電池が切れたかのようにソファでぐっすりと眠った時だった
今のうちに部屋いっぱいに散らかした画用紙やクレヨンを片付けてしまおうと一つずつ拾い集めていた中、ある画用紙に目が止まる
そこには二人の人物が描かれていて、その下には平仮名で『おにいちゃんとわたし』と書かれていた
「…髪色位しか似ていないだろう。」
お世辞にも上手とは言えない絵に思わず苦笑が漏れてしまうが、不思議と嫌な気分にはならない
バイラが迎えに来るまで後数時間
その間になまえが起きたらホットケーキでも作ってやろう
いい夢でも見ているのか幸せそうに眠るなまえの寝顔を見つめつつ、私はそっとブランケットを掛けてやった
無意識下の癒し
―――――
了見は何となく子供には優しそうなイメージだったので。