面と向かって言えない心配事
「お兄ちゃん、SOLテクノロジーからの依頼でPlaymakerを捕まえる賞金稼ぎをやるって本当?」
「ああ、本当だ。」
そう言いながらお兄ちゃんは私の淹れたコーヒーを静かに飲んでいる
今私と二人暮らしをしているお兄ちゃん…道順健碁は賞金稼ぎを仕事としているのだが、私達の間に血の繋がりはない
私は施設から引き取られてきた子供で、お兄ちゃんとは所謂義理の兄妹なのだ
それでもお兄ちゃんは私をずっと守ってくれて、私が近所の男の子に苛められた時は男の子が泣いて謝るまで追いかけ回した事もあった程だ
デュエルも凄く強いし頭もいいお兄ちゃんは私の自慢のお兄ちゃんである事に間違いはないのだが…
たった一つだけ、どうしても私には理解出来ない点があった
「これからSOLテクノロジーへ行ってくる。」
「えっ、今から?もうかなり遅い時間なのに。」
「なまえは先に寝ていろ。夜更かしは思考力を鈍らせる。」
「でも…。」
「心配するな、なまえ。直ぐに戻る。」
正直な所、私はお兄ちゃんが夜遅くに出掛ける事を心配している訳じゃない
夜中なのにサングラスを付け、口元を隠すようにスカーフを巻いた出で立ちで出掛けようとするそのセンス
それだけはどうしても理解出来なかった(だって前にその格好のお兄ちゃんと一緒に出掛けたら不審者扱いで通報されそうになったから)
でも正直に言ったらきっとお兄ちゃん、傷付くだろうなあ…
「どうしたなまえ、黙り込んで。」
「え?あ…ううん、何でもないの。気を付けてね、お兄ちゃん。」
私がそう告げるとお兄ちゃんはサングラス越しに目を細めて小さく笑い、SOLテクノロジー社へと向かって行く
「…お兄ちゃんが不審者と間違われて警察に通報されませんように。」
お兄ちゃんに直接指摘する勇気のない私はただ無事に帰ってくるのを祈る事しか出来ず
結局、お兄ちゃんが帰ってくるまで心配で一睡もする事が出来なかった
面と向かって言えない心配事
―――――
道順さんの格好があまりにも不審者過ぎたので。