お喋りなAIが与えてくれたかもしれない切っ掛け
「…参ったな。こんな課題、僕にはさっぱりだよ。」
放課後の視聴覚室で僕はタブレットを弄りながら盛大な溜め息を吐く
今日の授業中にプログラムに関する課題を出されたのだが、ネット音痴の僕には少々どころかかなり難易度が高く
試行錯誤しながら課題と向き合っていたのだ
『キミはこういう事に疎いからな。私が教えてやっても構わないぞ?』
「うるさいな、今やってるんだからちょっと静かにしててくれよ。」
本当は教室でやろうと思っていたのに、不霊夢は少し…いや、結構お喋りな部類に入るから他の生徒にバレないようわざわざ無人の視聴覚室まで移動してきたというのに
ちょいちょい上から目線な不霊夢に再度溜め息が出てしまう
そんなやり取りをしていた最中、後ろから扉の開く音が聞こえてくる
驚いて背後を見やった所、僕と同じクラスのみょうじさんが立っていた
「あっ、ごめんね穂村くん。何か作業中だった?」
「いや、その……ええっと、大丈夫。ただ課題をしてただけだから。」
転校してきた初日に可愛いなと思っていたみょうじさんに初めて話し掛けられた僕は慌てふためきながら何とか返答する
そんな僕をみょうじさんは不思議そうに見ていたものの、直ぐに柔らかな笑顔を浮かべる
「そうだったんだ。ね、その課題って4限目に出されたやつ?」
「う、うん。僕はこういうのってあまり得意じゃないから、試行錯誤してるんだけど…」
「なかなか上手くいかない?」
「…そうなんだ。」
…ああ、何だか気恥ずかしい事に加えて情けない事この上ない
きっとみょうじさんも呆れただろうと思っていたのだが、彼女は僕に軽蔑や侮蔑等の視線を送る事なく優しげな笑みを浮かべたままだった
「穂村くん、もし私で良かったらお手伝いしようか?」
「…えっ?でも、みょうじさんも視聴覚室に用があったんじゃ…」
「私は此処に忘れ物を取りに来ただけだから大丈夫だよ。ちょっと待っててね、教室から私のタブレット持ってくるから。」
そう言ってみょうじさんは軽やかな足取りで一旦教室へと向かっていく
そして一連のやり取りを見ていた不霊夢がデュエルディスクから出てくると僕の腕をつついてくる
『良かったな、尊。これも皆、私のおかげだな。』
「どこがだよ、全く…。」
…まあ、不霊夢がお喋りじゃなかったら此処には来なかったしみょうじさんと話す機会もなかったかもしれないけどさ
何故か自分のおかげだと自負して憚らない不霊夢に対し、何度目かわからない溜め息を吐いてしまう
それでも、みょうじさんと話す切っ掛けが出来た事には感謝しようかな
戻ってきたみょうじさんに課題を教えてもらいつつ、僕は心の中で不霊夢に感謝した
本当に、少しだけど
お喋りなAIが与えてくれたかもしれない切っ掛け
―――――
穂村が結構可愛かったです。