信じてくれたから、信頼しようと思った
『あーあ、結局追い出されちまったな。』
「ヒドイよねえ、遊作ってば。そんなにうるさくしたつもりはないのにさー。」
『いや…客観的に見たら結構うるさかったぞ、多分。』
「えー、そう?」
そう言いながら楽しげに笑うコイツはなまえ、遊作の数少ない…というか、唯一の友達だ
そんな友達のなまえと俺がどうして車内で作業中のアイツらから追い出されてしまったのかというと、理由はとても簡単なもので
俺となまえは作業そっちのけでオセロをして遊んでたんだが、どうにも白熱し過ぎてうるさかったらしい
最終的に遊作から「気が散るから出ていけ」と車外に追い出された、というのが事の真相だった
「でもホントは遊作、ああいう騒がしいのも嫌いじゃないんだよ。勘だけどね。」
『…勘、ねえ。』
AIの俺にそんな機能はついてないが人間の中には所謂勘が鋭いというヤツがいて、なまえもそういう人種の一人らしい
特になまえの勘の鋭さは凄まじく、相手の顔を見ただけで嘘を吐いているのかがわかるといった最早特殊能力と言ってもいい程だった
『なあなまえ、何であの時は遊作に黙ってたんだ?』
「あの時?」
『俺が記憶がないって嘘を吐いてた時だよ。ホントはわかってたんだろ?』
そもそもその勘の鋭さで遊作が俺を捕まえた事を見抜いていたのに、俺の嘘を見抜いてなかっただなんて考えにくい
「あー、あの事ね。確かに嘘吐いてたのはわかってたけど、何か理由があるんだろうなって思ったから。」
『嘘を吐くAIなんて信用出来ないとか考えなかったのか?』
「別に考えなかったなー。だってAiは悪い子に見えないし。」
『それもお得意の勘ってか?』
「ううん、どっちかって言ったら願望かな。私の。」
そう告げてなまえは人差し指で俺の頭を優しく撫でる
この世界にはいろんな種類の人間がいて
ハノイの騎士のように俺を消そうとするヤツだったり、SOLテクノロジーのように利用しようとするヤツだっている
それでも中にはなまえのように信頼を寄せてくれる人間もいて、つくづく遊作に捕まえられたのは不幸中の幸いだったのかもしれない
『これで遊作がもうちょっとなまえみたいに優しくしてくれたらなあ。』
「…え。ちょっと待ってAi、Aiに優しい遊作って見てみたいの?気持ち悪くない?」
『……気持ち悪いな。』
そう言って吹き出して笑い出す俺となまえ
全ての人間を信頼する訳じゃないが、なまえの事だけは心から信頼しても良さそうだ
屈託ない笑みを浮かべて笑うなまえに対し、俺は心の中でそっと呟いたのだった
信じてくれたから、信頼しようと思った
―――――
Aiがオセロしてたら可愛いかなと思って。