俺に似た、一輪の青い花


学校帰りである平日の夕方、俺は草薙さんに頼まれてある人の所へ届け物をしていた


見えてきたのは周囲を見渡してみても一際立派で大きな邸宅

その家のチャイムを鳴らし、暫く待っていると中から一人の女性が扉を開く



「はいはい、ちょっと待って下さい。…あっ、遊作くんだったんだね。」

「みょうじさん。」



中から現れたのは俺達の仲間であるみょうじさんで、彼女は人の良さそうな優しい笑顔で俺を出迎える


「これ、草薙さんから預かったデータです。」

「ああ、昨日翔一くんから連絡があったやつだね。届けてくれてありがとう、遊作くん。」

「…草薙さんに頼まれましたから。」



そう言ってみょうじさんはデータの入った端末を受け取り、ポケットへとしまいこむ


「…その、俺はこれで。」


いつでも穏やかで優しい彼女に惹かれていると気付いたのは少し前の事で、想いを自覚してからは何処となく気恥ずかしさを感じる

そう思って早く去ろうとしたのに、俺の左手はみょうじさんにそっと掴まれてしまう



「待って、遊作くん。折角だからハーブティー、飲んでいかない?今朝摘みたてのフレッシュハーブ、香りもよくておいしいよ。」


笑顔のみょうじさんに誘われた上、お世辞にも対人スキルが高いと言えない俺では適当に断る理由すら思い付かず

頷く様子を見せた俺を見てみょうじさんはにこりと微笑み、手を取ったまま庭へと俺を引っ張っていく



案内された庭には彼女が好きだという色とりどりの様々な花が咲き誇り、時折風に乗ってくる花の香りが鼻孔をくすぐる

そして、沢山の花に囲まれているみょうじさんが何だかとても綺麗でつい見惚れてしまう



「はい遊作くん、ハーブティー。…遊作くん、どうかした?」

「あ……いや、その…。……あの花。青い花はあまり見た事がなかったから、珍しいと思って。」



みょうじさんに見惚れていたとはとても言えず、偶然視界に入った青い花を指差してもっともらしい理由を告げる

その言葉を聞いたみょうじさんは何処か嬉しそうに目を細め、先程俺が指差した青い花が咲いた植木鉢を此方へ持ってきた



「この花はね、ムスカリっていうの。ちょっと遊作くんに似てるなって思って育ててた花なんだよ。」

「…俺に?」

「ほら、この青い花の色。遊作くんの髪色に似てるでしょう?」


そう言ってムスカリの花を撫でた手で俺の髪へと触れるみょうじさん


たった数秒、彼女に触れられた

ただそれだけで鼓動が速まってしまう



「……っ、みょうじさん。もう、草薙さんの所へ戻らないといけないので。」

「あっ、ごめんね。長々とお喋りしちゃって。」

「いえ…大丈夫です。」



これ以上みょうじさんの傍にいると俺の気持ちに気付かれてしまうかもしれない

そう考えて草薙さんを理由に退散してきたはいいがその反面、もう少し彼女の傍にいたかったと思う気持ちもある



「…ムスカリ、だったか。」


花に興味はないが、みょうじさんが俺に似ているといったあの花が少しだけ気になる


どんな花か今度調べてみよう

そんな事を考えつつ速まる鼓動を落ち着かせようと俺は一人、赤く染まった夕焼けを眺めたのだった


俺に似た、一輪の青い花

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ムスカリの花言葉は『明るい未来』です。
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