恋の訪れは突然に
「あー、すっかり遅くなっちゃったなあ。」
太陽が傾き始めた放課後
いつもなら帰宅部の私はもうとっくに下校している時間なのだが、今日は委員会の仕事が長引いてしまった為普段よりも遅い下校となってしまったのだ
「でも部活をやってる人達はまだ部活、やってるんだよねえ。……あ、友達発見。」
今更急ぐ事もなかった為今日はグラウンドを回って帰ろうかと足を向けた所、野球部や陸上部が部活をしているのがよく見える
その中でハードルを専門としている友達を見つけた為手を振ってみると、友達も気付いたのか手を振り返してくれた
「…そういえば入学当初、なまえも一緒に陸上やろうって言われたんだったっけ。」
彼女が何をどう思ってそう言ったのか真意はわからないが、何もない所でつまずいたり転んだりする運動音痴の私を陸上部へ誘うのは如何なものか
まあ誘われたのはその一度だけだし、気の迷いだったのかも…
「なまえ!横、横!」
「え、横?」
当時の事をぼんやりと思い出していた私に対し、友達が何か慌てた様子で声を張り上げている
何事かと思い視線を横に向けた所、なんと野球部の子が打ったらしいボールが真っ直ぐ私の方へ向かってきてるじゃないか
だが避けようにも物凄い速さで向かってくるボールを華麗に避ける技も自信も私が持ち合わせてる訳がない
硬球って当たると物凄く痛いらしいし…せめて当たるなら頭以外でありますようにと願い、私は頭を抱えながらその場にしゃがみこんだ
「……あれ?」
私がしゃがみこんで直ぐに何か鈍い音がした為、ボールが何処かにぶつかったのだろうと推察出来た
しかし肝心のボールが私に当たった形跡はなく、何が起きたのかさっぱり理解出来ない
「大丈夫か。」
そんな時に誰かから声を掛けられ、おそるおそる顔を上げるとそこには鞄を持った同じクラスの藤木くんが立っていて
藤木くんの足元にボールが転がっていた事から、彼が鞄でボールを弾いてくれた為に無傷で済んだ事をようやく理解した
「あ…ありがとう、藤木くん。」
「たまたま通り掛かっただけだ。」
それだけ告げると藤木くんは直ぐにその場から立ち去ってしまい、それと入れ替わりで私を心配した友達がやってくる
「なまえ、大丈夫!?」
「う、うん。大丈夫。ボールも当たってないし、何ともないよ。」
「ホント?だってなまえの顔、真っ赤だよ?」
「…へ?」
友達に指摘され自らの頬にそっと触れてみると確かに熱を帯びたように熱い
…いやいや、まさかベタな少女漫画みたいな展開で恋に落ちるとかそんな事はないよね、うん
「ねえ、ホントに大丈夫なの?」
「だ、大丈夫大丈夫。」
友達にはそんな事を言ってたものの、いつまで経っても頬の熱が引く様子は全くなく
次の日藤木くんを見ただけで速まる鼓動にああ、やっぱりと恋心を自覚したのだった
恋の訪れは突然に
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反射神経だけは無駄に良いので何かを避けるのは得意です。