大切な者を失って尚、進まなければならない茨の道
「やはり我々の邪魔をするか、なまえ。」
「私だってずっと考えた!考えて、考えて……それでもハノイの塔を完成させる訳にいかない。だって…未来の為だからって、今を生きてる人達を犠牲になんて出来ないよ!」
そう叫びながら一人のデュエリスト…なまえは果敢にもデュエルディスクを構える
元々なまえは我々ハノイの騎士に属していて、イグニスの捜索や奪還等あらゆる面から私をサポートしてくれた
それ以前に私となまえは恋人同士という関係で
電脳空間だけでなく現実でも彼女は常に私の一番近くにいて、私を支え続けてくれた
彼女との関係に変化が表れたのはイグニスの回収、抹殺が困難と悟りハノイの塔を起動させる事を決めた時だった
「ハノイの塔は絶対に起動させちゃダメ、了見!世界の全てが混乱に陥っちゃう!」
「イグニスを抹殺する為にはもうこれしか方法はない。我が儘を言うな、なまえ。」
「きっと他にもやり方があるでしょう!?…もういい!私が他の方法を探す!」
「待て、なまえ!」
初めてなまえと大きな言い争いをした末に彼女はハノイの騎士を脱退し、そのまま行方を眩ませた
その後ハノイの塔を起動させあらゆるデータを吸収し始めた矢先になまえは再び私の前へと現れ、冒頭の台詞を吐いたのだ
「わかっているのか、なまえ。私の前に立ちはだかる意味、それがどういう事を。」
「勿論、わかってるよ。だから…私が貴方を止める!」
「その言葉、必ず後悔する事になるぞ…!」
そして私達はデュエルを開始したものの、なまえが相手だからといって手を抜くつもり等毛頭なく
デュエル開始から暫く経った後、勝利を手にしていたのは私の方だった
「はあ、はあっ……やっぱり私じゃ力不足、だったのかな。」
「なまえ。…何故、私達の情報を晒さなかった。」
そう、我々の情報を幾らでもばら蒔く機会も時間もあったというのに何故かなまえは一つの情報も外部に漏らさなかったのだ
「そんな事、出来る訳ないよ。」
「なまえ…」
「『リボルバー』はハノイの騎士のリーダーだって知られてるけど、了見が『リボルバー』だって事は知られてない。これ以上、了見が悲しむ顔は見たくなかったから。」
我々と敵対しても尚、私の事を想う彼女の姿にこの計画を完遂するという決意が僅かに揺らぐ
そして遂になまえの体が徐々に消滅していくのを見て、彼女との別れが近い事を悟る
「…もう、ハノイの塔に吸収されちゃうのかあ。あとちょっとだけ、了見と一緒にいたかったな。」
「なまえ、私は…!」
「本当は私が貴方を止めたかったけど……力不足でごめんね、了見。」
その言葉と何処か悲しげな笑顔を最後になまえは完全にデータとしてハノイの塔に吸収された
「…直ぐに私も其方へ行く、なまえ。」
この計画の完遂はもう目前で、ネットワーク上の何処かに潜むイグニスやサイバース世界を消滅させれば何もかもが終わる
全てを終えたその時は謝らせてくれ、なまえ
おそらく悲しみの所為だろう、締め付けるような胸の痛みに気付かないふりをしながら私は完成していくハノイの塔を見上げた
大切な者を失って尚、進まなければならない茨の道
―――――
了見、カッコ良かったです。