逃げないといろんな意味で危ない
「こんな所にいたんですか、なまえ。随分と探しましたよ。」
「え、あー……スペクター。うん。」
電脳空間の一角でこっそりデッキ調整をしてた所、仲間のスペクターに発見されてしまう
彼はデュエルの腕も相当だし、悪い人ではなさそうなんだけど…どうにもこう、何となく私はスペクターが少し苦手だった
「さあ、なまえ。今日も私とデュエルをしましょう。」
「いや、だからずっと断ってるじゃん。大体私、仲間内でもあんまりデッキ内容を知られたくないの。」
「しかし以前、1度だけデュエルをした時があったでしょう?」
「それは…まあ、そうだけど。」
確かあの時は新たなコンボを思い付いたから試してみたくなって、丁度通り掛かったスペクター相手にデュエルをしたんだったっけ
そのコンボが上手く決まり偶然彼に勝ったまでは良かったのだが
そのデュエルで何故か私を気に入ったらしいスペクターにここ最近、執拗に追い掛け回されているのが現状なのだ
「なまえ、貴女は本当に素晴らしい。デュエルの腕も強くその上、美しい容姿をお持ちとは。」
「いや、これは所詮アバターだから。リアルで似せてる訳じゃないから。」
…まあ、ちょっとは同じような部分もあるけどさ
「何を仰っているんですか、なまえ。私は貴女の事なら何でも知っているのですよ?」
「はあ…例えば?」
「貴女がハノイの騎士に入ったのはおよそ5年前。デッキは私と同じ植物族をメインとして使っていますね。」
まあそれくらいは彼も知ってるか
何せリボルバーさんとは付き合いが長いみたいだし、デッキは以前戦った事があるし
「そして名前はアバター名と同じ、みょうじなまえ。現在はDencity内のアパートで一人暮らし。」
「……うん?」
ちょっと待った
今何か聞き逃せない情報があったような
「好きな食べ物はショートケーキで、嫌いな食べ物は梅干し。身長、体重は…」
「ストップストップ!スペクター、ストップっ!!何でスペクターがそんな事知ってるの!?」
仮にも私だってハッカーの端くれだから情報の流出には気を付けてきたつもりなのに、これはおかしい
「だから言ったでしょう?なまえの事は何でも知ってると。」
「いやいやいや、怖いから!怖すぎるから!」
だがスペクターは私が全力で拒否している姿等何のその、とびっきりいい笑顔で距離を詰めてくる
「ですがまだ足りません。なまえ、貴女の色々な表情をもっと私に見せて下さい。」
「怖い怖い!その言葉怖いから!最早狂気の沙汰だから!」
以前彼が自ら語っていた、幼い頃友達が出来なかったという話
もしかしなくてもこういう性格が問題だったんじゃないだろうか
ジリジリと距離を詰めてくるスペクターに対し、私はライオンから逃げる鹿のように全力で彼から逃げるしか選択肢はなかった
逃げないといろんな意味で危ない
―――――
スペクター、結構好きです。