残り僅かな時間を共に
「……。」
閉じていた瞼を開けば視界に広がる無機質な自身の部屋
その瞬間、LINKVRAINSから現実世界へと戻ってきたのだと改めて認識する
「…Playmaker。」
我々の計画を幾度となく邪魔し、ハノイの騎士を憎む人物
ヤツとの決着はそう遠くない未来で付ける事になるだろう
そう考えながら自室を出るとリビングに人の気配を感じる
そっと扉を開けばそこには買い物から戻ってきた妹のなまえがいた
「おかえり、なまえ。」
「ただいま、兄さん。今日のご飯を何にしようか悩んでたら遅くなっちゃった、ごめんね。」
「気にするな。」
私がそう告げればふわりと笑うなまえ
その笑顔を見ると、何故か自然と表情が和らぐ気がする
「そういえば帰ってくる時に広場でLINKVRAINSの話題をやってたけど、今ハノイの騎士っていう人達がいて危ないんでしょ?兄さんも気を付けないと。」
「…ああ、そうだな。」
なまえは私がハノイの騎士を率いている『リボルバー』だという事は知らない
ましてや私達がイグニスを抹殺する為、これからネットワーク社会の全てを崩壊させようとしている事も
「兄さん、どうかした?」
「あ…いや、今日の夕飯は何かと思ってな。」
「ふふっ、変な兄さん。今日の夕飯はクリームシチューだよ。直ぐに準備するから待っててね。」
そう言ってキッチンへ食材を運ぶなまえ
ハノイの塔が完成すれば私は二度と現実世界に戻ってくる事はない
なまえと過ごせる時間も後僅かだろう
「なまえ、手伝おう。」
「あれ、珍しいね兄さん。じゃあ、兄さんにはじゃがいもの皮を剥くのをお願いしていい?」
「ああ、わかった。」
私が唯一ありのままの私で接する事の出来る存在、なまえ
残り限られた時間の全てを、大切な妹と過ごす時間に費やそう
手際よく下準備を進めていくなまえの後ろ姿を眺めながら、私はキッチンへと足を進めた
残り僅かな時間を共に
―――――
シチューが食べたい気分でした。