もう少しだけ、貴女を独占させて
「んー、おいしい。やっぱりなまえが作るシフォンケーキは最高ね。」
「そうかな?ありがと、エマ。」
休日の太陽が傾き始めた夕方
私は友人のなまえが切り盛りしているカフェで彼女の手作りであるシフォンケーキを堪能していた
「いつも悪いわね。閉店後にご馳走になっちゃって。」
「ううん、大丈夫。エマなら大歓迎だし、それに片付けも手伝ってくれるもん。こっちの方こそありがとうだよ。」
そう言ってふわりと微笑むなまえの姿に自然と此方も笑顔になれる
なまえが一人で切り盛りしている小さなカフェは大々的な宣伝は一切していなかったものの、彼女が作るおいしいケーキと選び抜いた香りのよい紅茶
そして彼女自身の可憐さも相まって人気に拍車が掛かり毎日行列が出来る程のお店となっていた為、なまえに無理を言って特別に閉店後のお店へ入れてもらってたのだ
「そういえば最近忙しくてお店に来れなかったけど…変な客とか、しつこい男とかいなかった?」
「え?うーん…」
そう言って暫くの間、考え込むなまえ
幼い頃からなまえは誰にでも優しかった為に勘違いする男達が後を立たなかった
その度に彼女へ忠告するも本人は男達から寄せられる好意には全く気付いてる様子はなく、逆に気の所為だと言う始末
このまま放っておけば何れなまえを傷付ける輩も出てくるかもしれない
そう考えてなまえに悪い虫が付かぬよう、ちょくちょく近況を尋ねていたのだ
「……あっ。そういえば一昨日ケーキに使う苺が足りなくなったから買いに行ったんだけど、その時知らない男の人に絡まれちゃって。」
「ちょっとなまえ、そういう大事なことは早く言いなさいよ!」
直ぐにその男の特徴を調べて二度となまえに近付かないよう、社会的に抹殺してやらなくちゃ
「あっ、でも大丈夫。車から降りてきた男の人がその人を追い払ってくれてね、私は何ともなかったよ。」
「ふーん…男の人がね…」
なまえを助けたって事は悪い人間じゃなさそうだけど…でも、恩を売るような形でなまえに迫ってくる可能性はあるわね
「なまえ。その男の人、どんな感じの人だったか覚えてる?」
「えーっとね…確か青っぽい髪のスラッとした男の人で、スーツを着てて……あっ。そういえばSOLテクノロジーのマークが入ったファイルを持ってたよ。」
「……。」
やるわね、晃
晃の事だから邪な気持ちなんて一切なかったんでしょうけど、まさか仕事上の取引相手が関わってくるなんて思ってもみなかった
「そういえばエマってSOLテクノロジーの人と知り合いなんでしょ?私、開店前で急いでたからお礼もまともに言えてなくって…ねえ、その人と知り合いだったりしない?」
「……さあ、わからないわ。」
「うー、そっかあ。」
私が小さな嘘を吐いた事に気付かず残念そうな表情を浮かべるなまえ
「そんな残念そうな顔しないで、なまえ。ちゃんと調べておくから。」
「本当?ありがとう、エマ!」
私がそう告げれば彼女は直ぐに表情を明るくさせ、満面の笑みを浮かべる
悪いわね、晃
本当は貴方の事をなまえに伝えるべきなんだけど、なまえの笑顔とおいしいケーキをもう少しだけ、私に独り占めさせてね
そう心の中で呟きながら、私はもう一度シフォンケーキを口へ運んだのだった
もう少しだけ、貴女を独占させて
―――――
紅茶はダージリンが好きです。それかイングリッシュブレックファースト。