賑やかな食事も悪くはない
「なまえ、そろそろいいんじゃないか?」
「待って翔一くん、お肉がもうちょっと……あ。遊作くんごめん、お箸取ってくれる?」
これは一体、何がどうなっているのか
草薙さんから在宅しているかの連絡が来て間もなく何故か草薙さんが鍋を持って現れ、間髪入れずにハッカー仲間であり草薙さんの幼馴染であるなまえさんも食材を持って現れ
どういう訳か俺の家で鍋料理が今まさに出来る、そんな状況に理解が全く追い付かない状態だった
「…草薙さん。何故俺の所で鍋をしようと思ったんだ。」
「いや、言い出したのはなまえさ。最近寒いからお鍋食べたいなーとか言い出してよ。」
「別に此処でやる必要は…」
「俺が何か言った訳じゃない。遊作くんはちゃんと食べてるのか心配だし、3人で一緒に食べようってアイツが言い出したんだ。」
「………。」
草薙さんの提案なら文句の一つでも言おうかと考えていたのだが、出会った時から俺の心配や世話を焼いてくれるなまえさんが言い出した事
そう考えると何処となく文句も言えなくなってしまう
そんな事を俺が考えているとは露知らず、なまえさんは出来上がった鍋の中身をよそって笑顔で器を手渡してくる
「はい遊作くん、野菜もしっかり取ってね。」
「…ありがとう、なまえさん。」
彼女から手渡された温かい器の中には肉類は勿論、野菜やキノコ類が多々入っている
それらを眺めていると何かに気付いた草薙さんがなまえさんの器を手に取る
「なまえお前…自分がキノコ嫌いだからって遊作の器に沢山入れたな?」
「ち、ちち違うよ!?たまたま偶然いっぱい入っちゃったっていうか…」
「嘘つけ!野菜取れって言った張本人が苦手なものを食べないでどうすんだ。ほら、ちゃんと食え!」
「やだー!キノコ嫌いー!」
…ああ、どうりで器の中にキノコが多い訳だ
それにしてもいつも落ち着いていて大人らしいなまえさんにも苦手なものがあったなんて何だか可愛らしい、気がする
「ほらなまえ、好き嫌いするんじゃない。」
「嫌ったら嫌!翔一くんだって春菊苦手なくせに!だから春菊避けてよそってるの、知ってるんだからっ。」
「お、俺の事はほっとけ!」
「………。」
どうやら草薙さんとなまえさんの戦いはまだまだ終わりそうになさそうだ
互いの器にキノコや春菊を入れる応酬を繰り返す両者へ視線を向けつつ、たまにはこんな賑やかな食事も悪くはない
そんな事を考えながら俺は白菜を口へと運んだのだった
賑やかな食事も悪くはない
―――――
冬はやっぱりお鍋ですね。