君の運命が憎い
柔らかな日差しの下で笑う彼女は本当にあのジャンヌ・ダルクだろうか。いや、疑うまでもなくジャンヌ・ダルクなわけだがまだ覚醒してないとはいえどこか俺たちの時代で聖女と言われる女性には遠い存在のように感じる。
「霧野くん」
楽しそうに話すジャンヌや菜花たちを木にもたれ掛かりながらぼんやり眺めていると突然名を呼ばれた。その人物のほうに視線を移動させると山菜だった。
「山菜か…どうかしたのか?」
「特に用事はないの、ただ…」
「ただ?」
「霧野くんはジャンヌさんが気になるのかと思って」
急にそんなことを言われてびっくりした。ジャンヌが気になる?なぜ山菜はそう思ったんだ?
そんなことを考えていると顔に出ていたのかなんなのか分からないが「だってずっと見ているもの」。と山菜は言った。
「…そんなに見てたか?」
「見てた」
「お前が神童を飽きるほど見るくらいにか?」
「そうかもしれない」
っというか今、神さま関係ない。と聞こえた文句は右耳から左耳にスルリと通り抜けて行った。
そんなに見ていただろうか?はて?
ちらりとジャンヌの方に視線を向けると視線が重なり俺の視線はそこでピタリと固定される。視線をずらすことも話しかけることもない俺を不思議に思ったのかジャンヌが困った顔でこちらにやってきた。それに気付いたのか山菜は「霧野くんファイト」。といつものどことなく気の抜けそうなふんわりとした口調で言いジャンヌの抜けた輪の中に入っていった。
「どうかしましたか?」
声をかけられ山菜に向けていた視線を戻し少し上にずらすと俺の目の前で立つジャンヌと目があった。ジャンヌは「隣、失礼しますね」。と言うと俺の隣に座った
「いや、どうもしないんだけどさ」
「そうですか?ずっとこちらを見られていたので用事があるのかと…」
ああ、山菜の言うとおり俺はジャンヌを見ていたのか。
そう分かった途端なんだか急に恥ずかしくなってきた。ずっと見ていたなんてジャンヌにとっては居心地悪かっただろうな。なんて考えはすぐに吹っ飛び嫌われなかっただろうか?気持ち悪がられてないだろうか?という心配で脳内がいっぱいになった。
「あの、顔赤いですよ?具合がよくないんですか?」
「あ、え、いや、あの、俺は元気だぜ!」
このとき挙動不審とはこういうことを言うんだろうなぁ。と冷静に考えてる自分を殴りたかった。
そんなあわあわと焦っている俺にジャンヌはクスりと笑い、いつもの飴を取り出した。
「よかったらどうぞ」
飴を出されきょとんとした俺の手に飴を握らせるとジャンヌはそれはそれは綺麗な笑顔で「ランマルに元気がないと私もなくなってしまいます」。と言いその場から離れていった。
この瞬間、俺は彼女の未来を受け止められなくなる。