すぐに分かるから
「つまらないな」
昼休みの渡り廊下で霧野はとある方向を見ながら呟いた。俺は返事をするわけでもなく同じ方向を見やる。彼の親友と俺の親友の姿が目に入った。ああ、そういうことか。
「面白くないのか?」
「そうじゃないけど…」
そう言って口元に手をやり考える仕草をした霧野は首を傾げて「羨ましい?」。と言った。
「なんで羨ましいんだよ」
「分れば苦労しない」
そうか、と短く返事をするとそれ以上の会話はなく、時折聞こえる生徒の声や風に揺れる木々の音だけが響いた。
それにしても羨ましいとはなんだろうか?自分は親友たちのことを羨ましいと思ったことが多分だが一度もない。ただ面白くない、寂しいと思ったことはある。帰り道も昼休みも親友と過ごすことが極端に減ったからだ。しかし今は違う。いつからだかわからないが霧野とともに過ごすことが多くなった。同じサッカー部で親友同士が付き合っているとなれば必然だったのかもしれない。一乃に比べればまだまだだろうが結構な時間をこいつとは過ごしたような気がするが未だに考えてることが分らない時がある。
彼の横顔をちらりと盗み見るがいつものすました顔がそこにあった。
「青山は誰かと付き合いたいと思うか?」
急な質問だった。
「え?」
「付き合って手とか繋いだりしたいか?」
自分の処理能力が遅いのかなんなのか一向に思考が追いつかない。
付き合いたい?手を繋ぐ?、どれも今まで想像したことがなかった。まだ他人をそこまで好きになったことがないというかそんな感情を抱いたことがなく自分は色恋沙汰に案外疎いのだと思い知らされる。
「…考えたこともない」
「俺は今思った」
「今?」
霧野は頷いてからニヒヒっと彼らしくない悪戯っ子のような顔で笑った。
「お前ももうすぐ思うようになるよ」
「そうかな?」
「とういうかしてやる」
「…意味分らない」
相変わらず悪戯な笑みを浮かべる霧野とよく意味が分っていない俺の間をそよりと暖かな風が吹き抜けた。