黒じゃなくなった背中 | ナノ




 谷地仁花は何を思ったのか、大学入学後も何気なくバレー部を覗いてしまった。そしてまたマネージャー業務に励む日々がやってきた。清水先輩に教わったスコアの記録の仕方は、大学まで来るとできる人間が少なく、大いに役立ってくれた。清水先輩にそのことを報告したなら、あの花開くような笑顔がまた見られそうな気がする。高校生もそうだったが、大学生男子というのは背も高くガタイもいい。正直近づくのもおっかないのだが、練習に打ち込む姿はやはり応援したくなる。
 そうして、彼女はリーグ戦の会場で
「あれ! やちさん!!!!」
 と声をかけられた。まさかと思いつつ振り返ると、なんと。なんとなんと。
「ひ……ひなた!?? さん!!!?」
「なんでさん付け!?」
 いや、いやいや。さん付けしたくもなる。
 背は高校の間に伸び170を越したが、まだバレー選手にしては小さい。それは知っていたが、顔つきが、何故か変わった。無邪気な笑顔を見せていたあの日向が、どちらかというと精悍な顔つきで、微笑んでいるのだ。
 まだ大学に入って数ヶ月だというのに。人ってここまで変わるものですか。お母さん。男の子が特別なんでしょうか。
 くらりとめまいを感じながら、
「ひなた、久しぶり。なんか……おっきくなった?」
「最近伸びなくなっちゃったからそんな変わってないよ? ってか、やちさんマネージャー続けてたんだ! 嬉しい!!」
「お、おお! 喜ばせることが出来て光栄至極です!」
「相変わらずだなぁ……っと」
 ぬっと、横から大きく黒い頭の選手が顔を出した。
「谷地さんじゃん。ちっす」
 影山飛雄だ。思いっきり見上げつつ、敬礼する。すると影山も首を傾げながら敬礼を返してくれた。
「か、影山くんは相変わらず大きいねぇ……!!」
「くっそムカつく! くっそムカつく!」
「あ?」
 久しぶりの変人コンビを見て、胸がじんとしてしまう。高校3年間で二人の間で育まれた絆を知っているから。当初は違う大学に行って、お前を倒してやる! 上等だコラ!! という未来が見えた時期もあったのだが、やはり縁があったようだ。
「二人とも、また一緒にバレーやってるんだね」
 そう言うと、二人が同じような顔できょとんとするので、何か間違ったことを言っただろうかと慌てていると、
「「おう!!」」
 不敵に、そして楽しそうに笑う二人の姿がそこにあった。
 ああ。
 二人のコンビプレーを見た時に私は、バレーボールって、こんなふうに人を繋いでくれるスポーツなんだなって思ったんだよ。潔子先輩との出会いや、他の先輩たちの息の合ったプレー、後輩たちとの絆、すべてが素晴らしかったけれど、やっぱり私の中のバレーボールは、この二人がいなきゃ始まらない。
「やちさん?」
「う、あ、私、もう行かなきゃ! 日向たちも試合頑張ってね!!」
「うん! ありがとう!」
 別れて、彼女はふと振り返る。二人とも、当たり前だけれど、もう烏野のユニフォームを来ていない。カラスは、飛び立っていってしまった。もう二度と戻ってこない。そしてそれは、彼女も同じことだった。見慣れない色に、じわりと涙が浮かんで、ああでも、喜ばしいことなのだと、入り交じる郷愁を振り払った。











「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -