そんな格好でうろうろしないで | ナノ


 今日も今日とて馬車馬のように働かされて、身体はくたくた、心はぼろぼろで家に戻る。幸い、明日は休みだし、少しはゆっくりできるだろう。ただいま、と声をかけながら鞄とジャケットをリビングに投げ込み、廊下をまた戻る。
おかえりーと、背中に狛枝の声がする。相変わらず、彼は定時上がりのようだ。呑気な声してやがる、と心のなかで八つ当たりをしながら脱衣所に入る。
「風呂、入るわ……」
 シャツを脱いで、洗濯機に放り込み、スーツのズボンは洗濯機の上にひとまず置いた。下着姿になってからふとバスタオルがないことに気づき、ため息をついて廊下に出た。
 すると、気の利くことにタオルを持ってきた狛枝と鉢合わせた。
「あ、さんきゅ」
 狛枝からタオルを受け取ろうとすると、狛枝はタオルを取り落とした。
「おい……」
 タオルを拾い上げて顔を上げると、やけに深刻な顔をした狛枝がこちらを見つめていた。
「どうしたんだ? 狛枝……わっ!!!!」
 急に素早い動きで手を引っ張られて、対応できずにたたらを踏みながら狛枝についていく。無言で、狛枝は寝室に入っていった。仕方なく続く。
「なんだよ、なんか用あるなら風呂入ったあとじゃだめなのかよ……」
「だめ」
 ベッドに放り出されて、狛枝の顔を仰ぎ見て、あ、やばい、と遅い警告が頭のなかで鳴る。狛枝は熱っぽく日向の目を見つめていた。仰向けに押し倒されて、ぎゅっと両手を握られる。誰が好んで男と手を繋ぎたいかという話だけれど、狛枝はそんなことお構いなしに、両手を日向の手のひらに押しつけて、指を絡めた。熱い。狛枝の手は今まで熱湯につけられていたのではないかと疑うほどに熱く、狛枝が興奮しているという事実をそこから読み取ってしまい、日向の判断能力は低下していく。絡めた指が、すりすりと日向の手の甲を撫でて、そこにも不本意なことに性的興奮を覚えてしまうのは、本当に終わっているのではないかと自分に幻滅する。
「日向クン……」
 ぽつりと熱っぽく呟いて、狛枝は日向に顔を近づけて、唇を触れ合わせた。彼の薄い唇が、しかし確かな柔らかさで日向の唇を包む。躊躇うように1度口づけた後は、2度目、3度目が来るのは早かった。何度か角度を変えて唇をついばまれる。その間も絡ませた指は忙しなく日向の肌を確かめ続けた。
「こまえ……んっ……」
 抵抗の言葉を口にしようとして、今度は口内に舌を入れられた。日向の口の中を回り、検分するように舐め回す。その溶けそうなくらい熱い舌の感触が、日向の理性を刈り取っていく。避けようとしているのに触れ合ってしまう舌が、ぬるぬるとお互いの唾液を滑らせて絡む。
「ぁあ……ふぅ……んむ……」
 狛枝の舌は日向より長く、口内の深いところまで侵される。舌で押しのけようとしても、遊ぶように軽く絡ませたあとまた逃げられてしまう。上顎を舌の先でくすぐられると、自分のものではないような高い声が喉を震わせた。
「んんん……ふぅ、はぅ……あぁあ……んんっ……」
 意味のない、言葉にならない声がひっきりなしに自分から発せられていることには、ほとんど自覚がなかった。狛枝の息が荒くなっていっているのはわかる。望んだ状況ではないにも関わらず、それが、嬉しかった。
 歯列をなぞられて、背筋が震える。舌をちゅっと吸われると、腰に甘いしびれがびりびりと走って、身体を揺らさずにはおれなかった。
「んああぁっ……んっ……」
 動いた身体が相手にぶつかり、大げさなくらい驚いてしまって身体を縮こまらせた。唇をゆっくりと離した後、日向の下着に淡く染みができていることに気づいた狛枝は、そこを指でつつく。
「んっ……」
 狛枝の顔をうかがうと、彼は困ったように眉を下げて、微笑んだ。瞳は泣き出しそうなくらい潤んでいる。あぁ、こいつ、欲情してる……そう思ってしまうとぎゅんと心拍数が上がった気がした。狛枝は目を合わせたまま、ゆっくりと下着の上からするすると指を這わせてくる。勝手に涙が浮かんでしまう瞳をぎゅっと閉じると、狛枝の指で生まれてしまう熱を逃がそうと、ゆるゆると腰が揺れてしまった。
「日向クンは本当にしょうがないね」
「……ちが……」
「もう、濡れてる……女の子みたいだよ?」
「ちがうって……!! ぐっ……」
「なにが違うのかなぁ……キスで濡らしちゃうなんて、ほんと、よっぽど我慢してたんだね?」
 だってお前が、と続けようとしていた日向の唇は再びふさがれる。
「ふあ、んっ、あぁあ、こまえだ、ばか、やめろって、ふ、あ……」
 飽きもせずに舌が絡められる。先ほどよりも唾液の多い舌が、くちゅくちゅとはしたない音を口内に響かせて、日向の頭を真っ白にさせる。狛枝はわざと舌をいやらしく動かして、音を立てている。それが日向に効果的であると知っていてやっているのだ。それを知っていても日向の理性は抵抗できずに焼き切れていく。並行して下着の上から執拗に擦りつけられる狛枝の指先は、日向の液体でどんどん濡れていき、それを塗りつけるようにまた手が滑って、染みはどんどん広がって、それを息継ぎの合間に確認してしまった日向の顔は真っ赤に染まった。
「こまえ、ん、もう……あぅう、だめだ、って……っく、あぁ」
「何がダメなの?」
 唇を離しても、もう一方の愛撫は続けられ、弾け飛びそうになる理性をなんとか引き止めようと、日向は息を荒らげながら必死に抵抗した。
「これじゃ……このままじゃ……」
 俺ばっかり、そう言おうとした矢先、狛枝は日向の耳元に唇を寄せた。
「いいよ。このまま、出しちゃおうよ」
 そして舌で耳たぶをねぶり始める。狛枝の濡れそぼった指が、くるくると下着を撫で、そのスピードは徐々に上がっていく。竿の部分を浮き上がらせるように掴み上げ、自家製の液体でぬるぬると擦り上げられる。追い討ちをかけるように先端を少し強めに手のひらで包み込まれた。
「あっ……こまえ、あ、あ、ぁっ……あぁああっ……んんんんぅっ!!!!」
 きゅうと目を瞑り、日向が達すると、下着が白くどろどろと汚れる。下着の中で達するなんてひどい羞恥を目にしたくなくて、目を閉じたまま身体をびくびくと跳ねさせていると、狛枝の息が耳元にかかり、ひ、と口から引きつった悲鳴が漏れる。
「イけたね、日向クン」
「っあ……ばかやろう!! こんな、変なふうに、するなんて、何考えて……」
「変じゃないよ。恥ずかしいと気持ちいいんでしょ? 日向クン、そういうとこあるよね」
 どういうところだ! とつっこむ気力もないまま、どろどろの下着を脱がされる。身体に力が入らないため助かったが、そんなことを感謝している場合でもない。狛枝も自分の部屋着の下を脱いで、Tシャツと下着だけになった。
「頼むから、風呂に……」
 入らせてくれ、と言おうとして息が止まった。息を整えて多少マシになっていた顔色が、再び朱に染まる。狛枝の骨張った指が胸に触れていた。決定的な場所には触れずに胸板を這い回るその指に、熱っぽい息が漏れる。
「こ、こまえだ、いい加減に……んんんっ!!!!」
 大きな声が出てしまった口元を慌てて押さえる。胸の1番敏感なところから伝わったびりっ、とした感覚に肌がざわついて、下半身にきゅんと重い感覚が溜まる。
「あっ、ごめん、さわっちゃった」
「おまえっ〜〜〜〜〜〜」
 なおも指は胸筋をなぞるように動き続け、鈍い刺激にうめく。ゆっくりと、動く指を見つめながら、触るなら触ってほしい、でも自分から言うのは……と日向がこくりと唾を飲み込むと、狛枝はその仕草を笑った。
「なに?」
「やめろって……んん……汗、かいてるし、風呂、入りたい……」
「えー? でも、触ってほしい、でしょ?」
「い、いや、だから、それは、その、あとでも、できるだろ……?」
「あと? 日向クンのこの様子じゃあ、あとなんて、そんな悠長なこと、言ってられないと思うけど……」
「あのな……ん?」
 狛枝が今まで日向の胸元にあった自分の手を、日向の目の前に差し出していた。
「指、なめて」
「あ、んぐ……」
 なまあたたかい指が、口内に侵入してくる。行為を想起させるように、ぐちゅぐちゅと出し入れされる。その罠にまんまとはまってしまって、これが性器だったら……と考えてしまい、むずむずとした感覚が全身に渡って、舌を押さえ込むように動く指を必死に追いながら、息が上がってしまう。
「はぁ…………あのさ、日向クン……そんな顔されるとボクも……ちょっと、もう、困っちゃうんだけど……」
 狛枝が身体を寄せてきて、日向のあそこと狛枝の下着が密着する。
「こまえだ……あ、う」
 布越しに、相手の身体の熱と質量を感じて、思わず息が漏れる。先ほど吐き出した液体が狛枝の下着に染み込んで、ものすごく背徳的な気持ちになった。でも、自分のもので相手のものが侵食されるのは、なんだか気分がいいような……
「そんな、嬉しそうな顔しないでくれる?」
 日向の口内を指でかき回しながら、狛枝が目を細めた。
「はぁ!? してないぞ……!!」
「自分の顔見てから言ってよね……鏡でも持ってこようか」
「んっ……くっ、いらねぇ……!!!!」
 指を口の中から引き抜くと、狛枝はその指を、日向の胸のわずかに上でぴたりと止めた。
「じゃあ、触るね」
「っ…………いちいち言うな、ド変態……!!!!」
 そして、濡れた指先が触れる。
「っあ……」
「相変わらず、感度いいね」
「んっ、あ、だめだ、って…………」
「ダメとか言わない。ボクだって傷つくんだからさぁ……言葉選んでよ」
 心にもないことを言いやがって、と内心で毒づきつつ、確かに傷つけたくはない、という気持ちも芽生え、日向は口をつぐんだ。そうしてしまってから、こういうところが甘いんだ、とわずかに悔やむ。
「むぅ……んんっ……んっあっ……」
「乳首、気持ちいい?」
「ば、ばかかよっ……」
「だって、こんなに固くなってるから」
「誰のせいだと思って……」
「ボクだよね! だって、開発したのもボクだし、今も触っているのもボクだもんね?」
 狛枝は黙り込む日向ににっこり笑って、
「もっと声出してほしいんだけど?」
 指の爪を引っかけるようにして、先端を弾いた。
「ひっ……! んっ!! ……あぁっ! ……あっ……」
 びりびりと電気が流れるように身体が跳ねる。その度に、狛枝のあそこに自分のものを押しつけるようになってしまって、必死に身体を制御しようとするが、上手くいかない。
「んぅ……強情だなぁ……」
 ぬる、と1度腰を動かして、日向に押しつけると、狛枝は自分の下着を脱ぎ捨てた。わずかに濡れて光っているそれに目が釘付けになる。そして、彼は性器同士をくちゅりと擦り合わせた。先走りと精液が混ざりあって、狛枝がうっ、と小さくうめく。日向はその姿をもっと見たいと思って衝動的に腰を動かした。けれど、狛枝はむっとした顔で腰を浮かせ、身体の位置をずらすと、日向の胸に口を寄せる。
「あっ……ちょ、タンマっ…………」
 ちゅっ、と狛枝が乳首に口づけて、くわえた。舌で優しく、いいこいいこされるかのように撫でられる。あ、あ、と期待の声が漏れてしまって、また自分の口を手で塞いだ。ふふ、と笑い声が聞こえた気がする。次の瞬間、カリ、と軽く歯を立てられた。
「んあぁあぁああぁっ……!」
「あは、……ほんと、かわいい」
 角度を変えて食まれる。その度に、背筋が伸びて、大きな声を上げてしまう。意識がぽんぽんと舞って、どこにいるのか、何をしているのかわからなくなりそうになる。
「きもちい、きもち、い、むね、あぁああ、もっと、……こまえだぁあっ! あ、いやだ、吸ったら、ぁ、あ、あ、ぁ、あぁああぁぁああ!!!!」
 がくがくと震える身体にキスを落としながら、狛枝は囁いた。
「ねぇ、こういうときくらい名前で呼ばない? ムードってものがあるよね」
「はっ……だって……そんなの……」
「その方が愛を感じられると思うんだけど、どう?」
「お、おまえも、呼ぶんだろうな」
「うん、もちろん……」
 狛枝は日向の両手を取り、自分の性器を包むように誘導した。狛枝の手も日向のものに添えられている。腰の位置を合わせて、お互いにすり、と性器を押しつけあった。そして腰を揺する。
「う、はぁ…………」
「ほら、呼んでよ」
「お、まえが、先に、呼べよ」
「えー? どうしよっかなぁ……」
「自分で言い出したんだろ……」
 ぐちゅ、と泡立つような音が立って、腰が思わず揺れる。弱いところに当たる度に、狛枝が不器用にうめくのを、じっと見つめた。彼は普段、あまり弱みを見せないように日向を抱いているせいか、自分が感じている時は無防備になりがちだった。
「凪斗……」
「……っ……」
 顔を近づけると、素早く顔を背けられてしまう。それを追いかけて、優しく唇を重ねた。
「ちょっと、なんのつもり……?」
 拗ねたように目を逸らした狛枝が弱々しく聞き返す。返事の代わりに、包むように動いていた手で、狛枝の性器を掴む。人差し指と親指でわっかをつくり、先端のくびれた部分にひっかけるように動かした。他の指で裏筋をくすぐってやる。
「あ!? くぁ……っ! ……」
「…………ここ、好きだろ」
 焦らすように、くびれの部分をゆっくり通る。ぶるぶると、狛枝の身体が震え始めた。白い頬が熱を持って淡く色づき、目が伏し目がちになり、視線はおどおどと落ち着きがなくなっていく。唇は吐き出す息に対して発する言葉数が足りず、余った吐息がはくはくと出ていく。おもしろそうに日向を弄んでいたときとはえらい違いだ。
「う、あ、ちょっ……何やってんの……!!?」
「お前の弱いところを刺激してる」
「ちが、そうじゃなくて、わ、顔見るなって……」
 日向は手を動かしたまま、狛枝の顔をまっすぐに見ている。日向は反応が見たくてそうすることが多かったが、狛枝がそれを苦手としていることは知っている。今も、手を止めて自分の顔を隠そうとしている。
「なんで。凪斗の顔、好きだぞ」
「ばっっっっっかじゃないの! あぁ、ちょっと、ねぇ、んんんんぅ……」
「それに感じてるときの凪斗の顔、えろい」
「こ、こんな、見るに堪えない顔見なくていいから、やめてよ……名前呼ぶのもやめてってば」
「なぎと」
 わざとゆっくりと発音する。一瞬、狛枝の瞳がふるりと揺れた。涙が浮かんで、同時に先走りがとぷ、とあふれる。
「う、んうううぅ……自分も感じてるくせに、そういうことを……」
 狛枝は枕元にあったローションのボトルを乱暴な手つきで掴み、中身を手のひらに開けた。片方の手は日向の性器に伸び、もう片方の手はー
「ひっ……!!!!」
「ごめん、冷たかった?」
 優しい声音を出しているが、こいつは鬼だ。主導権を奪い返せたと思っているのか、先ほどまでのことはなかったように、余裕の表情を取り戻してしまっている。日向の背中側に腕を回し、尻に指を這わせて、そのすぼまりにぬるついた指先を押しつけて、侵入させてきていた。
「ちょっとまて、くそ、……っ」
「ほんと不毛だね、こんなところ使わなきゃいけないなんて」
 ね、と囁きながら埋められた指をゆっくり引き抜くように動かされて、うめき声が漏れた。
「じゃあ、やめろよ……!!」
「やぁだよ」
 くそ、と悪態をついて、日向は自身の性器をより強く狛枝に押しつける。狛枝から漏れるくぐもった声はローションの感触を受けてだろう。さらに滑りが良くなって、ぐちゅりぐちゅりと卑猥な音が部屋に響き渡った。
「んっ……ちょっと、煽らないでくれる?」
 狛枝の指は日向の後孔を浅く犯しながら、準備を整えている。その刺激に物足りなさを感じた身体が、わずかに浮き沈みをしているのを自覚して、顔が火照る。ああ、もう、風呂に入るはずが、どうしてこんなことに。
「お前のせいだろっ…………」
「ああ、そうかもね。でも、途中で切り上げてお風呂に入ればよかったんじゃない?」
「それは……んんっ……!」
 こういうことは良くあった。狛枝に火をつけられて、途中で中断できるくらいの強固な意志がいつも日向には足りず、流されるまま、最後まで貪ってしまう。ここまで自分が快楽に弱いとは思わなかった。どれもこれも全部狛枝のせいだ。途中でやめられない日向のことをわかっていて、わざと変なタイミングでおっぱじめるのはいつも狛枝だった。
「汗くさい、だろ?」
「は? もうこうなったら、変わらないでしょ?」
「ったくお前は……!!」
「そんなどろっどろな顔して、よく言うよ。まだ余裕があるみたいだね」
「っうぐ!?」
 挿れられる指が増やされる。狛枝の、おそらく人差し指と中指が、付け根までゆっくりと自分のなかに沈む。その感覚に、目からぽろ、と涙がこぼれた。
「……まさか、痛いわけじゃない、よね」
 罪悪感とやらがあるのか、狛枝が顔を寄せて、日向の頬に舌を這わせた。気遣われている。こんな、人のことを急に犯し始めるおかしな輩に。
「…………っ……」
 唇を噛んで、首を振る。ゆっくりと指を引き出され、また挿れられる感触に、異物感を覚えながら、狛枝の指の曲げ伸ばしや、骨張った感触を、普通ならありえない場所で感じる。そこからわかるのは、傷つけないように細心の注意を払われていることだ。ゆっくりゆっくりなかを広げられる感覚は、最初は気分がいいとは言えなかった。気持ちが悪くて、本来出すはずの場所に挿れられて、正直吐き気を催したこともあった。今となっては、その優しい感触が、逆にだめだった。頭の端から徐々に絆されてしまっているような、勘違いかもしれないが、全力で好意をぶつけられているような、そんな気がした。もう何度も身体を重ねていて、頻度もそれなりなのに、毎回ゆっくり解されてしまうと、我慢させているのではないかと複雑な気分になりながらも自惚れてしまう。愛されている気がしてしまう。そうすると、もう何も言えなくて、性器をぶつけ合ったまま、狛枝の背中に手を回した。
「あれあれ? どうしたの? 甘えたくなっちゃった?」
「…………もう十分、甘えてるっつの」
 首を傾げる狛枝に、1本取ってやったような優越感を覚えて、催促するように腰を揺らした。前と後ろから同時にふわふわした快感が襲ってきて、止められなくなってしまう。
「あっ、ん……っ、ふぅぅぅ……」
「んっ……ド変態は、どっちなんだよ…………!!!!」
 狛枝が絞り出した声にはもう余裕がなく、日向に抱きついて巻き込むようにベッドに倒れ込んだ。足を開かせて、腰を上げた体勢になった日向から1度ふい、と目を逸らして、ローションをさらに足すと、狛枝は日向の手を取って、自身の性器に触れさせる。
「な、なに」
「入れるから触ってて」
「はっ…………?」
 日向が返事をする前に、なかに狛枝のものが進入してきた。手のひらにぐっと固くなるものを感じながら、先端が侵入してくる感覚を下半身が受け取る。
「んぐうぅ……」
「もう、むりだよ、ねぇ、うごくから」
「ちょ、えっ、んんんっ」
 日向の太ももに狛枝の腰の骨がぶつかり、身体全体が揺らされる。体内に他人の熱があることにいつまでも慣れず、密着している身体の内側はいつまでも蠢いて、結局狛枝を絶頂まで導いてしまう、そんな自分の身体が恨めしい。
「あぁあっ、すごい、なか、きもちいぃ、日向クン」
「こまえだ……ぐっ、あ!」
 日向の方はどちらかというとただただ息苦しい場面が多い。唯一、感じる部分を刺激された時だけ、目の前が白く弾けて意識が飛びそうになる。それにしたって、気持ちいいというよりは、むずがゆいような、そんないてもたってもいられない身体の疼きで、シーツを無我夢中で掴んでゆっくり息をしようと意識しないと、頭がおかしくなりそうだった。
 ふと、狛枝が先端をなかに残したままずるり、と途中まで引き抜いた。残った先端で浅く揺り動かされて、日向の内ももがひくついた。圧迫感が多少マシになったことによるひどい脱力感。まだ解放されていない欲が下半身に熱を集めて、少しでも快感を拾おうとしている。浅い位置でぐるりと腰を動かされるが、もっと奥に欲しいという気持ちが隠せない。思わず、挿入する際にしたように狛枝の性器にねだるように手を伸ばす。濡れそぼり、びくびくと脈打つものに、形を確かめるようにして触れていく。
「こまえだの……んん、あっ…………こまえだの、こまえだのが、なぁ、なんで、もっと……」
 うわごとのようにつぶやくと、当の狛枝は荒い息を整えていたがはぁ、とため息をついた。
「キミって、そういうのどこで教わってくるの? 」
「…………? おまえが、いったんだろ、さわれって」
「へぇ。触って、奥にほしいって、おねだりしてるんだ」
「んっ……だ、って、こまえだが、抜いちゃうからだろ…………」
「日向クン」
 不意に、狛枝が日向の腰を掴んで引き寄せるようにしながら、自分の腰を突き出した。片手は前で放って置かれていた性器に伸びている。
「あっ……ぅぐ……!!!!」
「んぅ……お望み通りでしょ? もう、止めないからね」
 後ろから貫かれ、それにリズムを合わせるように前を扱かれて、反応を確かめるように動いた後は、狛枝は容赦なく腰を動かした。前と後ろからくる快感にぐちゃぐちゃにされて、半分意識が飛んでいた。視界がようやく戻ってきた時には、腹の上となかにどろりとしたなまあたたかい感覚があった。日向も狛枝も果てていて、汗と涙とその他の液体でどろどろだった。狛枝がんん、と眉を寄せて、最後の数滴を日向のなかにこぼした。その顔が、扇情的で、綺麗だったことは、鮮明に覚えている。




 シャワーを浴びている間も、身体中が痛い上に、意識はふわふわと頼りなかった。そしてようやく念願の湯船にに浸かることができたのはいいが、後ろから抱きつくようにしてひっついているやつが邪魔で風呂が狭い。
「おまえ、なんで俺の風呂の邪魔をするんだ……」
「逆だよ……お風呂が、ボクと日向クンの邪魔をしてるんだよ」
 屁理屈すぎる。拗ねたような声に面倒くささを感じつつ、狛枝の手を取った。指を絡めると、狛枝は口をへの字にしたままぎゅっと握り返してくる。
「お前、手繋ぐの好きだよな」
「えっ」
「だって、途中でいつも繋いでくるだろ?」
 不思議そうにきょとんとした狛枝の唇は、次の瞬間弧を描いた。
「ああ、気づいてないんだね」
「なにが?」
「感じると手を握ってくるでしょ、ぎゅーって」
「は?」
「だから、目安にしてるっていうのと、なんだか可愛いから握っていたくなるんだよね」
「………………………………」
「あは、おもしろい顔」







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