おめでとう | ナノ





 隣で岩泉がキャンディーをくわえている。花巻と松川が急にいなくなったと思ったら、ゲームセンターで取ってきた棒付きキャンディーを差し出してきたのだ。及川はすっかり酔っ払った2人がふらふらと繁華街をさまようのを横目に、岩泉を見つめた。
「なんだよ」
 短く唸って目を細める彼は、それでも上機嫌だった。岩泉は他の3人よりも到着が遅れたため、さほど酒も飲めなかっただろう。けれど、酔っているように機嫌が良かった。
「楽しそうだなぁって」
「ったりまえだ。それに、皆で会うの久々だろ?」
 彼は笑って、仕事帰りのスーツ姿で、キャンディーを噛み砕いた。あの頃より遥かに歳をとり、大人びた格好をしているのに、笑い方とキャンディーを噛み砕く子どもっぽさは岩泉のままで、及川はその姿にひどく安心した。やはり、幼馴染みが笑って隣に立っているのはいい。
「なんだか、何でもできそーな気がする」
「は? お前まで酔ってんのか? 頼むから妙な真似すんなよ」
 呆れたように笑う岩泉に、大丈夫だよ、と手を振って、花巻と松川の元に駆け寄る。
 きらきらと反射するネオンが目に眩しい。少しだけ乾いた目をぱちぱちと瞬かせると、爽やかな色合いの、自分たちの色がまぶたの裏に蘇って。花巻と松川のユニフォーム姿が見えた気がした。
「おいかわぁー」
「えっマッキー泣いてんの?」
「おれはうれしーぞーぉ」
「及川、ほんとにおめでとう」
「ありがとまっつん……マッキーも」
「おれはうれしーんだよ〜」
「同じことしか言えてねーぞ花巻」
 思わず吹き出した及川に、花巻は目に涙を溜めながら笑い、松川も微笑む。
 振り返ると、やはり破顔した岩泉がいた。キャンディーがなくなり、すっかり棒だけになったものを離して、その唇が開いた。及川、と名前を呼ばれる。
 もう何度も言われた言葉だけれど、間違いなく、彼の言葉が一番嬉しい。

「日本代表入り、おめでとう」











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