お前のことだよ | ナノ



 及川徹は見た目が良い。目は適度に大きいし、鼻もすっと通っていて全体のバランスを損なわないし、唇は薄く大きくも小さくもない。首から肩にかけて精悍さがあり、身長もある割には、威圧感を緩和させる柔和な雰囲気も持っている。
 その彼を目の端に捉えると、クラスメイトと談笑する普通の高校生の姿が映った。バレーをしているときの空気をも切るような殺気は発せられていない。どこまでもやわらかく、でも自分の奥は晒さないように細心の注意を払って、隠して、それでいて人にはすべてさらけ出していますよ、というような顔をしてみせる。

 これが岩泉が知っている及川徹だ。



 岩泉は、自分の机に頬杖をついて窓の外を見ながら、かわいいな、とつぶやいた。

 その途端。

 は、と短く空気を飲んだ及川がつかつかと歩み寄ってきて、岩泉の視線の先をきょろきょろと忙しげに見回した。
 どうやら聞かれたらしい。
「だれ? だれが? だれのこと?」
 頬杖をついたまま、岩泉は答えない。
「3組体育だったんだ……で? どの子? ねぇ」
「んー」
 岩泉の肩に手をかけて揺さぶりながら、及川徹はなおも視線を校庭に向けて、写真を撮るように風景を記憶しようとしている。おそらく、その写真を家に帰ってから眺めて、この中に岩泉好みの女子がいる、と記憶しておくのだろう。馬鹿な、と思うかもしれないが、この男はそれくらいのことはやってのけるのである。
「……佐々木さん、でしょ」
 どうやら、そこまでしなくても及川なりの答えが出たらしい。
「そういやこの前岩ちゃんが、3組の女の子だったら佐々木だろって言ってた」
 よく覚えているもんだ。そんなの佐々木くらいとしか話さないから消去法で答えたに過ぎないのに。
「ねぇ、そうだよね。その子のジャージ姿を見て何考えてたんですか……汚らわしい」
「及川」
「岩ちゃん、それ以上はやめてよね、俺、」
「聞けよ」
「なんだよ!!」
「すまん。お前のことだったんだけど」
「はい?」

 窓の外に顔を向け、視線だけは及川に向けながら、岩泉は再びかわいいな、とつぶやいた。
 及川はぽかんと口を開けてその場に立ち尽くしていた。











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