「あのね獄寺くん…」
もじ…と沢田が恥ずかしそうに俯く。
ボンゴレ執務室。いくら仕事中と言えど恋人と二人きりになったら途端に甘い雰囲気が出るのは当然だろう。
「なんですか?」
獄寺は沢田から受け取った書類を整理していたが、顔をあげ、恋人の顔を見た。
付き合いはじめてから10年経とうとしていても獄寺の恋人は未だに初々しい反応を示す。今なんて赤くなりすぎて横に林檎を並べても違和感がないくらいだ。
しかし、赤かった顔は獄寺と目が合った瞬間僅かに苦しそうに顔を歪めたがすぐ元の顔に戻った。
自称右腕兼恋人である獄寺がその僅かな変化を見逃さないはずがなかった。
「大丈夫ですか、10代…」
目、と言い終わらないうちに沢田は獄寺に抱きついた。
今までにないくらい強く。まるでもうすぐ別れるかのように…
「獄寺くん、」
沢田は一瞬間を開けた。
「…俺のこと好き…?」
「勿論です!10年前からずっとです!」
今さら何を言うのだと言わんばかりに獄寺は即答した。それが沢田にはそうとう嬉しかったんだろう、必死に堪えていたが耐えきれず涙が一筋彼の頬を伝う。
「…うん。俺も好き…10年前も今も」
抱き締める力が一層強くなる。それと共に彼の涙も止まることを知らず流れ続ける。
「…たくな…」
「10代目?」
沢田はごしごしと目を擦って赤く腫れた目で一生懸命笑顔を作る。
「獄寺くん、大好き。これからも『俺』をよろしく。もしこれから何があっても俺は必ず獄寺の元に帰ってくる…だから」
待っていてくれる?
獄寺が即答で返事をしたのは言うまでもない。
それから暫くして獄寺は沢田の言葉の意味を知ることになる。
彼の『死』を持って。
『離れたくない―…』
汚れ無き忠誠の先には(彼は約束した)
(例えどんなことがあろうと自分のもとに帰ってくると)
(だから今自分に出来ることはただ一つ)
(過去から来た『彼』に状況を説明し、『彼』を信じることしか)
(出来ない…)〈end〉
2009.07.10
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