もしかしたら、
姉上のことは好きだ。姉上が好きというものは俺も好きになれるよう努力してきた。しかし、どうしても土方だけは好きになれない。寧ろ嫌いだ。
姉上のためなら何でも出来た。しかし、もうその姉上はいない。
この世にはもう。



ぼうっとしていたから、忍び寄る気配に気付かなかった。
「何見てんだよ俺の部屋で」
ギラリ、と鈍く光を放っている刀を首筋にあてられても俺は動じない。いつものことだ。
「別に何を見たって良いじゃないですかィ。お前のものは俺のもの」
「ジャ○アンかお前は」
はあ、とため息をついて土方は刀をしまう。ヒヤリ、と冷たいそれが離れていく感触は嫌いではないが何となくほっとした。
「安心して下せェ。アルバムですよ、アルバム」
ぴらぴらとビニール加工された分厚い本を見せる。本当はこれを見るために土方の部屋に入った訳ではないのだが、当初の目的はもう忘れてしまった。
忘れるのだからどうせ大した用ではないのだから彼は気にしないことにしている。
「あーアルバムな。懐かしいな」
土方は俺が山積みにしていたアルバムの山の一番上を手に取り、パラパラと捲った。
「これとか上京する前の写真じゃねーか」
土方が目を細めて僅かに顔を伏せたのを俺は見逃さなかった。ああそうか。
「どれですかぃ」
ぐい、と土方を押し退けて見てみれば案の定姉上が写っている写真だった。近藤さんと土方、姉上、そして俺の4人で。
この写真一枚で自分のしたことをまざまざと甦らせることには充分だった。
姉上は写真の中で幸せそうに笑ってるのを見ると体が悲鳴をあげる。
どういう時に撮られた写真か忘れてしまったが、土方と俺が喧嘩しているのを近藤さんが止めようとしている。そしてそれをそばで見ている姉上。
大好きで大好きで姉上の幸せを笑顔を一番に願っていた俺が、一番姉上の幸せを奪っていた。

はたり、と写真に水滴が落ちた。何かと思って土方を見れば驚いている。変な顔だ。
「おまっ何泣いてるんだよ」
泣いてる?誰が?
は?みたいな顔で土方を見、頬に手を当てると僅かに湿っている。
俺が、泣いていた。まさか大嫌いな土方の前で。
土方は慌てて写真をアルバムにしまうと、ぐっと力強い腕で俺の体を引き寄せた。
「気色悪いでさァ」
「うるせーな。ちょっとは黙りやがれ」
確かに気色悪いに程がある(普段ならこうすることもこうされることもあり得ない)が、温かい。
僅かにニコチン臭い隊服に顔を埋め、恐る恐る背中に手を回す。土方は一瞬ブルリと震えたが俺のすきなようにさせてくれた。たまにはこんなのも悪くない。
「俺は泣いてません。見間違いでさァ」
「……そうか」
嫌いな奴に俺は涙なんか見せてやるものか。そう思いたいのに体は正直だ。
『嫌いなやつと十年も一緒にいられるかっつーの』

頭の中でぐわんぐわんと反響して少しクラクラする。
俺はもう何も考えたくなくて、目を閉じた。部屋の窓から爽やかな風が髪を撫でていく。それが心地よい。

姉上のことは好きだ。姉上が好きと言うものは俺も好きになれるよう努力してきた。
しかしどうしても一人だけ、どんなに姉上が惹かれていても好きになれなかった。
でも、もしかしたら。





〈end〉

2010.02.21
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