ただ……逢いたくて
「恭さん」
失礼しますといって草壁が雲雀の部屋に入ってきた。
「なんの用?」
しばらく沈黙が続いた。
「…だが…」
「?」
「10年前の沢田綱吉が…やってきました」
雲雀が沢田綱吉の死を知ったのは、ほんの1ヶ月前のことだった。
(あれからもう1ヶ月たつのか…)
部屋の窓から、外の景色を眺めながら、雲雀は思った。
 ――あの子の訃報を聞いたとき、運命を、自分を呪った。
こんなことになるなら、ずっと傍にいればよかった。
匣の研究より、君の方が大切だったのに。
気付けばよかった。自分の気持ちに。
告えばよかった。好きだ、愛してると。いなくなってから、自分の気持ちに気付くなんて。
自分は最低だ。後悔してもしきれない。
自分の気持ちに気付いても、伝える筈の相手はもういなくて。
ただただ唇を噛み締めて泣くことしかできなかった。
会いたいのに、伝えたいのに、もう君はこの世にはいない。
君を忘れられないまま今日まで来た。
君と一緒に過ごした僅かな時間だけがまた僕を一人にさせている。
君を忘れたかった。忘れらればどんなによかったか。
でも君は確かに僕の隣にいたんだ。
君を忘れるには、君の体温は暖かすぎた。
僕は過去は振り返らない主義だけど、忘れられない過去や君と出逢って犯してしまった過ちも君の笑顔で消し去ることが出来たのに、もう君はいない。
これからも君のような人は現れないし現れてほしくなかった。
出来ることならもう一度会えたら……と思っていた。
(まさかホントに会えるとはね)
「グハッゲホッ」
「甘いね」
ほんの少しの力で彼は崩れ落ちた。
甘すぎる。この調子では勝敗は目に見えている。
生き返らせなければならないのだ。
彼のためにも。
僕の攻撃で腫れた頬に手を当て彼ー10年前の沢田綱吉は立ち上がった。
目はいつもの彼とは違い鋭くなっている。
まだやる気のようだ。
僕はふ、と空気で笑う。
「そうこなくっちゃね」
君には絶対勝ってもらわないとならないから。
僕がいなくても一人で立ち向かえるほど強く。
幻騎士とやらと闘ってやっている。彼が想定以上に強かったせいでスケジュールが狂い始める。
(出来れば僕がとどめをさしたかったんだけどな)
「何故笑っていられる!」
嗚呼。
(もうすぐで)
入れ替わる。
(あとは頼んだよ)
10年前の自分に思いを託しそっと目を閉じた。

「くすぐったいです雲雀さん」
学ランが首にあたって。
「いいから。疲れてるんだろ」
「いやでも、」
「……」
「わ、わかりました」
ったくもうとブツブツ言いながらも肩に寄りかかってくる。暫くすると規則正しい寝息が聞こえてきた。
僕の思っていた通り、彼は疲れていたのだ。
寄りかかったその頭は思ったよりずっと軽くて。
触ったらすぐ壊れてしまいそうな気がした。
今は昔の話だが。

そっと僕の頬に温かいものが触れる。
それを包み込むように僕は手を頬にあてた。
「僕は、君が憎くて仕方がないよ」
「憎くて憎くて殺したくて、」
「…愛したくて愛されたくて」
ふわり、と蕾が綻ぶように笑う。
全く、僕がどんな思いでいたかわかっているのか。
「雲雀さん」
君がそう呼んでくれるならもうどうでもいいよ。
「お帰り」
「只今」
懐かしいその顔。
僕はそっと彼の唇に触れた。
久しぶりのキスは温かかった。


〈end〉

2009.12.07
2012.01.18 加筆修正

同名曲が余りにも未来編ヒバツナに合いすぎたので。


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